『リトル・ランボーズ』

上原輝樹
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『ノーウェアボーイ』(09)と『16歳の肖像』(08)が、イギリスの50年代を舞台に、『This in England』(06)が80年代を舞台にしたように、本作も80年代のイギリスを舞台にした青春映画である、と言ってまずは差し支えないだろう。

ただし、『This is England』がスキンヘッドカルチャーとザ・スミスの音楽に象徴された労働者階級の若者を描いたビターテイストの青春映画であるのに比べて、スタローンの『ランボー』(82)、そしてキュア、デュラン・デュラン、デペッシュ・モードといったイギリスのニューウエーブの中でもニューロマンティックとも称された未来のポップミュージックに象徴されるメジャー調の本作『リトル・ランボーズ』は、監督の実体験に基づいた物語ながらも、寓話性が強く、愉快なイマジネーションに溢れた快心作である。『This is England』のヒリヒリした切迫感も胸に迫るが、本作の明朗さと映画作りの洗練もなかなか得難いものだ。

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実写映画に"グラフィックス"が上手く使われていると、何故かその映画作家が育った家庭環境がとても安定していたのではないか、と無条件に思ってしまうのだが、本作の特徴的な"グラフィックス"表現にも、ガース・ジェニングス監督の"育ちの良さ"を感じてしまう。そもそも、そうした"育ちの良さ"は、イギリス国外に目を向けると、容易にスパイク・ジョーンズ、ソフィア・コッポラ、ミシェル・ゴンドリーといったガース・ジェニングスよりは一世代上の映画作家たちの洗練を想起させる。スパイク・ジョーンズはコンピュータ・グラフィックス(『マルコヴィッチの穴(99)』)を、ソフィア・コッポラは手描きのグラフィックス(『16歳の肖像』の秀逸なオープニングタイトルに影響を与えたに違いない『ヴァージン・スーサイズ(99)』)を、ミシェル・ゴンドリーはミニチュアや実在のマテリアルを用いて作り込んだモーション・グラフィックスを、全体的にはリアリズムで撮影した実写映像の中に、イマジナリーな要素として、フラットな日常を装飾する要素として組込んでいる。もちろんこうした手法自体は取り立てて目新しいものではないが、音楽のセレクションと同様に、本作特有のイマジナリーな世界を構築し、観客を惹き付ける魅力的なアイテムとして大いに効果を上げている。

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そうした魅力的なアイテムは、監督の"センス"に関わる領域の問題として重要だが、むしろ、本作のより本質的な非凡さは、緻密に練り上げられた脚本と確かな演出、一気呵成に見せる映画のリズムにあるかもしれない。実際は青春映画というよりは、『スタンド・バイ・ミー』的なローティーンの小冒険譚というべき本作は、『ランボー』に影響されて映画作りを始めた主人公の少年が、親友との友情と裏切、厳格な宗教信者である母親との葛藤といった様々な試練の道のりを経ながら、夢想家的イマジネーションの爆発<脚本、絵コンテ>と人との共同作業である映画作り<撮影>のプロセスを、劇中劇としてしっかり作っているところが素晴らしい。そして、その劇中劇のオチと、本作自体のオチがスマートかつ、エモーショナルに連動しているところが見事で、監督の力量の確かさを裏付ける。ガース・ジェニングス監督は、既にファットボーイ・スリムやR.E.Mのミュージックビデオでその名を知られる存在とはいえ、今、その言葉の意味と実態が激変しつつある"インディーズ映画"という言葉の枠を遥かに超えて、120分間弛むことなく、爽快に泣いて笑って楽しめる、完成度の高いエンターテイメントムービーの登場に拍手を送りたい。


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『リトル・ランボーズ』
英題:SON OF RAMBOW

11月6日(土)より、渋谷シネクイントほか全国ロードショー!
 
監督・脚本:ガース・ジェニングス
製作:ニック・ゴールドスミス
製作総指揮:ヘンガメ・パナヒ、ブリストル・ボーン、ベンジャミン・ゴルドハーシュ
撮影:ジェス・ホール
プロダクションデザイン:ジョエル・コリンズ
衣装:ハリエット・コーリー
編集:ドミニク・ラング
音楽:ジョビィ・タルボット
キャスティング:スージー・フィギス
出演:ビル・ミルナー、ウィル・ポールター、ジェシカ・スティーヴンソン、ニール・ダッジオン、ジュール・シトリュク、エド・ウェストウィック、アンナ・ウィング、エリック・サイクス 他

© Hammer&Tongs, Celluloid Dream, Arte France, Network Movie, Reason Pictures

2007年/イギリス、フランス/94分/カラー/ドルビーデジタル
配給:スタイルジャム

『リトル・ランボーズ』
オフィシャルサイト
http://rambows.jp/
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