『ジュリエットからの手紙』

鍛冶紀子
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本作を監督したゲイリー・ウィニックは、今年の二月、脳腫瘍により死去。まだ49歳の若さだった。ウィニックは多くのインディペンデント作品をプロデュースしてきたが、2000年に入ってからはジェニファー・ガーナー主演の『13 Love 30』(04)、ダコタ・ファニング主演の『シャーロットのおくりもの』(06)、アン・ハサウェイ&ケイト・ハドソン主演の『ブライダル・ウォーズ』(09)など、メジャークラスの作品を監督。遺作となってしまった『ジュリエットからの手紙』も、主演にアマンダ・セイフライドとヴァネッサ・レッドグレイヴを迎えるなど、華やかな顔ぶれが並ぶ。

『ジュリエットからの手紙』はウィニックの作品の中でも、『13 Love 30』や『ブライダル・ウォーズ』と同様、ロマンティック・コメディの系譜にある。『13 Love 30』よりはファンタジーが少なく、『ブライダル・ウォーズ』よりは笑いが少ないが、ジュリエット宛に手紙を出すと"ジュリエットの秘書"から返事が返ってくるという事実を素にしたストーリーは十分にファンタジックだし、ガエル・ガルシア・ベルナル演じるビクターのイタリア料理バカっぷりには思わず笑わされる。さらに今回は、イタリアはベローナという最高の風景を伴うロードムービー的要素もあり、前二作に比べてやや大人っぽい。

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ウィニックの描くロマンティック・コメディは、恋愛映画であるとともに女の子の成長物語でもある。恋をすること、ときに恋を終えることで、女の子たちはグッと上を向いて歩き出す。また、ウィニックの作品では恋愛と同じ分だけ友情についても描かれる。それは女の子の恋愛が、女同士の友情によって励まされ、支えられながら実っていくことを踏まえているからこそであろう。『ジュリエットからの手紙』でも、祖母と孫ほど齢の離れたクレアとソフィの友情が互いの恋愛を支え合う。時に気弱になる友人を励まし、時に本人の知らぬところで恋の相手をけしかけるその姿に、自身の経験を重ねる女性は多いだろう。

50年前にクレアが出した"ジュリエット・レター"をひょんなことからソフィが見つけ、"ジュリエットの秘書"として返事を書く。その返事をきっかけに、クレアはかつて裏切ってしまった初恋の人を探すため、孫のチャーリーを伴ってイタリアへやってくる。ソフィは婚約者のビクターと旅行に来ているが、ビクターは近々オープンするイタリアンレストランの食材選びに夢中でソフィのことなどおかまいなし。記者志望のソフィはクレアに「旅に同行し、記事にしたい」と申し出る。クレア、チャーリー、ソフィの三人は、"ロレンツォ"という名前だけを頼りに、初恋の人を探し始める。

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ロマンティック・コメディはファンタジックなものだ。だからこそ、事象としてではなく心象としての共感が必要になる。そういった意味では、クレアを演じるヴァネッサ・レッドグレイヴの老いてもなお美しく、瑞々しく恋をするその姿には多くの女性が理想としての共感を抱くだろうし、結婚を控えたソフィの「本当にこの人でいいの?」という悩みや、恋人に精神的なつながりを求めるその姿には多くの女性が等身大の共感を抱くだろう。しかも彼女たちは単に"恋を夢見る乙女"なのではなく、自ら恋と成功をつかみ取るべく前へ前へと進んでいく。恋に対して自ら一歩踏み出すことが、いかに勇気を必要とするか。やりたい仕事に対して積極的にアプローチしていくことが、いかに努力を必要とするか、肌身で知っている人は多いはず。本作がファンタジックなストーリーの割に単なるおとぎ話に終わっていないのは、ウィニックらしく「女の子の成長物語」という一面をここでもしっかり抑えているからであろう。

一方で男性はどこか情けなく、どこか子どもじみた風に描かれる。例外的なのはクレアの初恋の人・ロレンツォなのだが、それはフランコ・ネロを配した時点でそんなキャラクターになるはずもなく、葡萄畑をさっそうと白馬に乗って表れるその様は、ロマンティック・コメディの中に一瞬マカロニ・ウェスタンの風を吹かせる。

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カラリとしたイタリアの風景同様、明るく気持ちのいいエンディングは、まさにロマンティック・コメディの王道。これがウィニックの遺作なのだと思うと残念でならない。リアルがフィクションを超えて深刻になってしまった今こそ、こうした明るく幸せな映画が観たい。甘過ぎず、バカ過ぎず、バランスの取れたウィニックのロマンティック・コメディは、これからもっと求められたであろうに。


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Comment(2)

Posted by PineWood | 2015.05.10

明るく前向きな生き方が、何とも素敵です。古い手紙のタイムカプセルが開いて半世紀もの時の壁を超える愛情というのがいい!
F.ジンネマン監督の映画(ジュリア)でのバネッサ・レッドグレイブも良かったけど、今回はややコミカルだが、未だパッションの灯は消えず。

Posted by キャメロット | 2011.05.18

昨日みてきましたが、直後には別に印象にものこらない映画だったなあとおもっていました。が、今日ロレンツォの配役をみてびっくり!フランコ・ネロだったんですね。彼はキャメロットでバネッサと競演しその後結婚したが、すぐ離婚したはず。となると、この映画、ぐんと立体感や皮肉が込められて立体感が増してきますね。 うーん、おもしろい!!

『ジュリエットからの手紙』
原題:LETTERS TO JULIET

5月14日(土)より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国ロードショー
 
監督:ゲイリー・ウィニック
脚本:ホセ・リベーラ、ティム・サリヴァン
プロデューサー:エレン・バーキン
撮影監督:マルコ・ポンテコルヴォ
出演:アマンダ・セイフライド、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、ガエル・ガルシア・ベルナル、クリストファー・イーガン、フランコ・ネロ

© 2010 Summit Entertainment, LLC. All rights reserved.

2010年/アメリカ/105分/スコープサイズ/ドルビーデジタルDTS
配給:ショウゲート

『ジュリエットからの手紙』
オフィシャルサイト
http://www.juliet-movie.jp/
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