『ミツバチの羽音と地球の回転』

上原輝樹
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丁度、時を同じくして原発が環境に与える影響について懸念を呈する2つの映画が公開される。一つは『100,000年後の安全』というフィンランドを舞台にしたドキュメンタリー映画で5月公開予定だが、2/12から開催される「トーキョー ノーザンライツ フェティバル 2011」でプレミア上映される。私はまだ未見だが、リリースによると以下のような内容とのこと。

毎日、世界中のいたるところで原子力発電所から出される大量の高レベル放射性廃棄物が暫定的な集積所に蓄えられている。その集積所は自然災害、人災、および社会的変化の影響を受けやすいため、地層処分という方法が発案された。フィンランドでは、世界初の高レベル放射性廃棄物の永久地層処分場の建設が決定され、地下都市のようなその巨大システムは10万年間保持されるように設計される予定だが、裏を返せば廃棄物が10万年間の間、有害であり続けるということでもある。(一部文面を編集)

埋葬後、10万年間(!)はその扉を開けてはいけないというメッセージは、果たして未来の世代に伝わるのか?監督は自ら建設が進行中の施設に潜入し、このプロジェクトの実行を決定した専門家たちにプロジェクトの合理性を問う、という内容であるらしい。

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もうひとつの映画が、本作『ミツバチの羽音と地球の回転』なのだが、こちらは、中国電力の上関原発計画に向き合う山口県の瀬戸内海に浮かぶ小島、祝島が舞台。祝島には28年前から原発建設計画があるが、島の人々は一貫して反対の姿勢を示し続けている。年月を経て島の過疎化が進む状況の中で、原発を推進する国や自治体からの補償金交付による懐柔策にも折れることなく、今なお95%の島民が反対の姿勢を示す。

『ヒバクシャ - 世界の終わりに』(03)、『六ヶ所村ラプソディー』(06)そして本作と、環境とエネルギーの視点から"核"の問題を追ってきた鎌仲ひとみ監督のキャメラは、島の反対運動の中で二代に渡って中心的な役割を果たす父子とその家族を中心に、島の漁業や農業に従事する人達、デモの矢面に立って気勢をあげる住民達に寄り添って、島の暮らしを紹介していく。この湾に原発が建設されることで確実に生じるとの調査結果が出ている"環境破壊"、その結果、この土地で漁業や農業で生計を立てて暮らしていくことができなくなる、生活破壊に対して、自らの生存を賭けて「NO」と言う、島の人達の切羽詰まった現状が映画から伝わってくる。

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それでは、原発建設に"反対"した先にどのような"未来"があり得るのか?鎌仲監督は(それが祝島にとっての直接的な解決策になるとまでは言っていないと思うが)ひとつの可能性として、環境先進国といわれるスウェーデンの例に着目する。スウェーデンの最北端、オーバートーネオ市では、風力、バイオマスなどを使い、市で使用する電力の半分を再生可能な自然エネルギーでまかなっている。一体そのような事がどのようにして可能になったのか?スウェーデンの例が示唆するのは、地域分散型の小規模エネルギー開発に着手するということ、そして、電力を自由化するということ。電力が自由化されることで、人々や企業は、環境にとってよりよい方法で発電された電気を選ぶことができるようになるという。電力会社は、再生可能エネルギーを売ったり、省エネ技術を売る事で利益をあげるといったビジネスが創出される可能性も出てくる。つまり、本作は、単なる反原発映画ではなく、原発建設反対のその先に実現可能かもしれない、ひとつのモデルを提示し、賛成あるいは反対の立場に固執して思考停止に陥りやすい状況に対して提言を行い、現実に働きかける啓蒙映画だと言える。

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その提言自体、素人目には、それなりの説得力を持って迫って来たので、映画を観終わった後に、「小規模分散型の風力発電で一部のエネルギー需要を賄っている"スウェーデン"と比較しても、"日本"の風力には3倍の潜在能力があるという。なぜ日本ではそうした新しいエネルギー政策が進まないのか?」との感想をツィッターで呟いたのだが、すぐに専門の方から「日本の風力発電の現状は、まだそれ程進んではいない、あまり過度な期待をかけるのは危険」とのアドバイスを頂戴した。現実的には、政府によるエネルギー事業に対する規制、国策としての原発推進といった既成路線があり、その現実の反映として、スウェーデンのようには一気に舵を切れないという状況があるのだろう。その当然の帰結として、様々な研究が存在してはいるものの、実用化までは難題が山積しているという現実があるに違いない。だからこそ、本作のような映画が、広く一般の目にとまり、私たちの暮らしに必要な"エネルギー"の現在と未来について考えを働かせるということはとても重要なことに思える。

また本作の未来に向けた提言には、現在"日本"に住む私たちが考えるべき多くの問題の根幹が示されている。それは、もちろん"環境"と"エネルギー"の問題であると同時に"政治"の問題であるだろう。"非政治化"されたこの国で、私たち、市民の意思や選択の"羽音"をどのように鳴らしていけば、私たちの住む地域に良い影響を及ぼすような意思決定の仕組みを構築していくことができるのか、人々の生活の上で重要な基本ルールを再検討する必要性が迫られている。そうした事を考えるためのツールとして、このような映画が作られる。それも21世紀の映画のありうべき姿のひとつに違いない。


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『ミツバチの羽音と地球の回転』

2月19日(土)より、渋谷ユーロスペースにてロードショー
 
監督:鎌仲ひとみ
プロデューサー:小泉修吉
音楽:Shingo02
撮影:岩田まきこ、秋葉清功、山本健二
録音:河崎宏一、服部卓爾
助監督:豊里洋、南田美紅、齋藤愛
編集:辻井潔
上映担当:藤井佳子、猿田ゆう、小原美由紀

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2010年/日本/カラー/デジタル/135分
配給:グループ現代

『ミツバチの羽音と地球の回転』
オフィシャルサイト
http://888earth.net/


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