『ハーモニー 心をつなぐ歌』

浅井 学
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現在アメリカで大ヒットしているドラマ『Glee』でも、落ちこぼれグリー(合唱)クラブメンバーが未来を信じて歌いあげる歌声に泣かされたばかりだが、"合唱"はそれ自体に人間関係の構築や演奏までの成長のプロセスが重層的に組み込まれ、年齢や国籍などを超越して見る側にも演じる側にも一体感と感動を生み出す。本作でも直球のストーリーと深い悲しみを昇華する程の歌と人間の力に素直に涙した。

舞台は韓国・チョンジュ女子刑務所。お腹の子供を夫の暴力から守るために殺人を犯し、服役中のジョンへ(キム・ユンジン)は息子ミヌを獄中で出産した。だが刑務所内で養育を許されているのは生後18ヶ月まで。ミヌを育てられるのはあとわずかの時間しか残されていない。身寄りのないジョンヘは、可愛い盛りの子供を養子に出すことを決意する。この主人公ジョンヘを演じるキム・ユンジンは、『シュリ』『セブンデイズ』、そしてアメリカの人気ドラマシリーズ『LOST』のクールなイメージから一転、明るくコミカルな表現で、韓国の現代的な"母"を演じてみせている。

そんな悲愴な決意を胸に秘めつつも、慰問に来た合唱団の歌声に感銘を受けたジョンへは、自分たちも合唱団を結成しようと思い立つ。半年間で成果を上げることを条件に所長から結成の許可を得た彼女は、早速メンバーを集めて元音大教授の死刑囚ムノク指揮のもと練習を開始する。

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ムノクを演じるのは40年以上のキャリアを持つナ・ムニ。「ナ・ムニが泣けば観客が泣き、ナ・ムニが笑えば観客が笑う」とも言われるほど、韓国の茶の間のエンターテインメント作品に欠かせない国民的な女優。まさしくここでも受刑者たちから優しく強い"母"なる存在として慕われている。しかしムノクもまた、幼い子どもを残して、怒りにまかせて夫とその浮気相手を殺害した死刑囚である。そして死刑執行前までに、自分を憎みつづける子どもと何とか和解しようと努力をするが、その思いは届くことはない。

この女子刑務所の受刑者の罪のエピソードには、韓国の現代社会の影の部分が色濃く映し出されている。DV、性的暴行、男尊女卑的な社会通念、母子家庭、そして貧困...重なり合う悲しみ、痛み。しかし、その中でも必死に生き、子を守り愛する"母"たち一人一人の想いが重なり合って歌となる。受刑者の歌う姿に、皆それぞれの"母"を見いだすだろう。そこにさらに深い感動がある。

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時がたち、刑務所のステージ上には、自信にあふれ満面の笑顔で歌い上げる在監者たちの姿があった。合唱団を成功させたジョンへは、息子ミヌとの特別外泊を許される。ミヌに初めて刑務所の外の景色を見せるために。そして、新しい養母へ預けるために...。そして、死刑囚ムノクにも運命の日が訪れる。

脚本やキャスティングも手掛けたカン・テギュ監督は36歳。イ・ミョンセ監督の『デュリスト』やユン・ジュギュン監督の『TSUNAMI - ツナミ』などの助監督を経ての長編デビュー。エピソードがあふれて、やや雑な印象も残るがそこは新人監督の1シーン1シーンへの熱い思い入れを強く感じ、むしろ好意をもった。韓国映画の中でも感動や笑いのあるあたたかなヒューマンドラマの作り手として期待される若手の一人だ。


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Comment(1)

Posted by PineWood | 2016.09.13

本編は東京映画祭の韓国映画特集で観ました。主演女優も来日していて舞台挨拶があった。映画では音痴役の彼女はその苦心談などユーモラスに語った…。会場は映画のラストシーンで号泣と相成り、ヒューマンな作品内容に拍手喝采だった。韓国映画の暴力性が云々される中で良心的な素敵な力量を示した作品!

『ハーモニー 心をつなぐ歌』
原題:Harmony

1月22日(土)よりシネスイッチ銀座、新宿バルト9ほか全国にて

監督・脚本:カン・テギュ
製作:ユン・ジェギュン
撮影:キム・ヨンホ
編集:シン・ミンギョン
音楽:シン・イギョン
出演:キム・ユンジン、ナ・ムニ、カン・イェウォン、チョン・スヨン、パク・ジュンミョン、イ・ダヒ、チャン・ヨンナム

2010年/韓国/115分/カラー/SRD
配給:CJ Entertainment Japan

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『ハーモニー 心をつなぐ歌』
オフィシャルサイト
http://www.harmony-movie.com/
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