『ジェニファーズ・ボディ』

鍛冶紀子
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そういえばジュノはホラー好きだった。「ホラーの帝王はダリオ・アルジェント」と言うジュノが、お腹の子どもの父となる予定のマークとハーシェル・ゴードン・ルイスの『血の魔術師』(70)を観るシーンがある。

どうやらジュノのホラー好きは、脚本家本人の話だったらしい。『JUNO/ジュノ』(07)で一躍有名有名になったディアブロ・コディの新作は、なんとホラー!でも、ダリオ・アルジェントほどの恐怖はないし、ハーシェル・ゴードン・ルイスのように血みどろでもなく、ディアブロの得意とするティーンネイジャー、もちろん女子、が主役の学園ホラー。しかも主演はミーガン・フォックス!

舞台はアメリカ中西部の田舎町。学校一の美少女ジェニファーと地味なメガネっ娘のニーディは幼なじみ。ジェニファーは自分が美人であること、男たちの視線を浴びる存在であることを重々自覚している小悪魔女子。ある日町にインディーズバンドがやってくる。インディーズとはいえバンドはバンド。イケてる男目当てにジェニファーはバーへ繰り出そうとする。

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彼女は恋人との約束があるというニーディを強引に誘い、しかも「かわいくしてきてね」と一言添える。それはもちろん言葉通りではなく、「ダサくない格好できてね、でも胸は隠して。胸を出すのは私なんだから」という意味。これを暗に理解できるニーディ。彼女はジェニファーとの間に見えない支配・被支配関係があることに気づいているし、自尊心の高過ぎるジェニファーにいささか愛想も尽かしているのだが、裏腹に学校一の美人の親友であることが彼女の小さな拠り所ともなっている。この複雑な女子心理!こういうところがディアブロ・コディは上手い。

前作『JUNO/ジュノ』が発表された当時はブロガーという言葉が広く定着し始めた頃だったこともあり、ブロガーでさらには元ストリッパーというディアブロ自身が大々的にクローズアップされた。『JUNO/ジュノ』が作品としてすばらしいことは間違いないが、あそこまでメディアが取り上げた背景に彼女の異色の経歴があったことは間違いないだろう。

彼女のブロガーとしての強みが映画脚本のどこに活かされているかというと、それはもちろんセリフの妙にある。『JUNO/ジュノ』にも『ジェニファーズ・ボディ』にも言えることだが、正直プロットはベタ。だけど、セリフにリアリティがあるから作品として強い。映画のためにセリフを作ったというよりも、自分の知っている現実を言葉に置き換えた結果のセリフという印象を受ける。それは、脚本を書くということを職人的に行っている脚本家ではできないことだろう。例えば彼らをプロと呼ぶならば、ディアブロの脚本はプロじゃないからこそできたものかもしれない。もしもそうだとすると、今後作品数を重ねていくであろうディアブロには、相反の苦悩が待っていることになる。手法を獲得してしまったら、彼女のフレッシュさは失われてしまうだろう。しかし、いつまでもセリフの妙だけで勝負できるとは思えない。そういう意味でも、今後の彼女の活躍には注目していきたい。

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それにしても、ディアブロとミーガン・フォックスのタッグは正直意外だった。ミーガンとホラーという組み合わせはありだけど、学園モノのキャラではないし、ティーンネイジャーの役にはちょっと......?と思っていたのだ。だって、08年には「世界で最もセクシーな女性」に選ばれたミーガンと、ディアブロが綴った『JUNO/ジュノ』の世界観とは、あまりにもかけ離れている。しかしミーガンにとってディアブロは「パワフルな女性」として共感できる存在だったようで、「ハリウッドでは、恋人や妻役がほとんどで、女性が主人公の脚本にはめったにめぐりあえないの。だから異なる意味でとても強いふたりの女性キャラクターを、ディアブロ・コディのようなパワフルな女性に書いてもらえたのは素晴らしく意味のあることだと思う」と語っている。

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ミーガン・フォックスの美しさはたしかに本作の要のひとつだが、劇中もっとも輝いてみえるのはニーディ役のアマンダ・セイフライド!意外にも、学園ものには欠かせない「普段は冴えないけどメガネを取ったら実は美人」というキャラクターがハマっている。同じ学園ものだった『ミーンガールズ』(04)ではセレブ集団ドールズの一員(ドジ役だけど)だった彼女に、一転目立たない日陰組を演じさせたというのがニクい。
プロムのシーンで見せる、人一倍目立つ、そしてダサい、ローズピンクのドレス姿なんて最高。だからこそ"KICKER"となった後のニーディの美しさが引き立つ。途中、この手のストーリーだともっと過剰なドジっ娘キャラ(例えばぽっちゃり時代のドリュー・バリモア的な)をキャスティングしてもよかったのでは?と思ったものの、ラストまで観るとアマンダ・セイフライドの起用に納得がいく。
終盤、それまでジェニファーの言いなりだったニーディが悪魔と化したジェニファーと修羅場を繰り広げ、ついには「一体ニーディって誰だったんだろう?」とつぶやくまでに変貌するのだが、その姿にかつてメガネっ娘だったニーディの片鱗はなく、それまでチャーミングなカエル顔だったアマンダ・セイフライドが、ボクサーのようなギラギラとした顔つきに変わる。あのシャープさは、ぽっちゃりドリューには難しいものがあっただろう。

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宣伝ではミーガン・フォックスのセクシーさが唱われているけれど、セクシーと言ってもちょっと美人の田舎娘といった態で、いわゆる妖艶とはちょっと違う。血だらけの姿も正直半分コメディ。102分で満腹になるガールズムービーを観に行くつもりで行かれるとちょうど良いかと。


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『ジェニファーズ・ボディ』
原題:Jennifer's Body

7月30日(金) TOHOシネマズみゆき座他 全国ロードショー

監督:カリン・クサマ
製作:メイソン・ノヴィック、ダニエル・ダビッキ、ジェイソン・ライトマン
製作総指揮・脚本:ディアブロ・コディ
撮影:M・デヴィッド・ミューレン
音楽:セオドア・シャピロ、スティーヴン・バートン
出演:ミーガン・フォックス、アマンダ・セイフライド、ジョニー・シモンズ、J・K・シモンズ、エイミー・セダリス、アダム・ブロディ

2009年/アメリカ/102分/カラー/ビスタサイズ/ドルビーSR・SRD,DTS
配給:ショウゲート 

©2009 Twentieth Century Fox

『パラレルライフ』
オフィシャルサイト
http://www.jennifers-body.jp/
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