『パラレルライフ』

上原輝樹
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"平行理論"というセオリー="運命"によってあらかじめ決められた<自分と娘が殺される>危機を回避するには、"平行理論"=<パラレルライフ>の謎を解き明かし、予見された結末を自ら書き換えるしかない、という設定がとりあえず面白い。映画は、トニー・スコットの影響を感じさせる動きに満ちたスリリングなサスペンス・アクションを展開し、観るものをまずはこの悪夢めいたフィクションの世界に引きずり込むことに成功するだろう。

本作の主人公、強い信念に基づく判決を躊躇無く言い渡しながら出世街道をひた走ってきた敏腕判事をチ・ジニが好演、その判事の敵か味方か判然としない謎めいた気配を漂わせる刑事をイ・ガンソンが助演している。この、大沢たかおと加瀬亮を合わせたような、ナチュラルに不気味な存在感を放つイ・ガンソンが本作の魅力を高めることに貢献している。

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仕事一筋の判事には、美しい妻(ユン・セア)と最愛の一人娘があり、何不自由のない幸せな日々を過ごしていた。だが、ある日、妻が何者かに惨殺されるという事件が起こり、すべての歯車が狂っていく。事件を調べる内に、優秀な判事ゆえだろうか、過去の判決に恨みを持つ受刑者や元受刑者が幾らでもいることがわかってくると、妻を亡くしたばかりの判事に追い打ちをかけるように、最愛の娘の命を脅かす不審な電話が掛かってくる。そこにある女性記者が登場し、この事件と全く同じような事件が過去に起きている、これは"平行理論"というセオリーで説明することができる不可解な現象なのだと主張する。

"平行理論"=<パラレルライフ>とは、全く違う時間と場所に生まれた人物が、同じような人生を歩んでしまうという架空のセオリーだが、本作では、それを、100年の時を経て生まれ、上院議員から大統領に就任、最後は悲劇的な暗殺によって人生の幕を閉じたエイブラハム・リンカーンとジョン・F・ケネディの生涯を参照して説明する。確かに、この例だけでは、"平行理論"の信憑性は幾らフィクションとはいえ乏しいのだが、このセオリーが現代の韓国に置き換えられて物語が展開していくにつれて、"平行理論"は、凡アジア的ともいえる宿命論的な奥行きと広がりを持ちはじめ、"もしかしたらあり得るかもしれない"という不気味な説得力を以て観客に迫り始める。

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クォン・ホヨン監督が、エッシャーのだまし絵をイメージしながら作り上げたという主人公の判事の家も、虚々実々の暗く陰惨な物語が展開するのに相応しいトーンとモードを獲得していて、観客をこの悪夢めいたフィクションに浸らせる大きな一助となっている。

それでも、映画の最後の最後に、コーエン兄弟のある映画を想起させる、とっておきの演出で、この救いのない物語を明らかな作り物として気付かせるあたり、もの凄いブラックユーモアながらも、一種のカタルシスを観るものにもたらしてくれる。ナイトメア・ムービーにして、観終わったあとのこの爽快感、"平行理論"という風呂敷の大きさに負けず、あり得ない組合わせの余韻を残す素晴らしく屈折したエンターテイメント作品の誕生である。


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『パラレルライフ』
原題:Parallel Life

7月24日(土)より、シネマスクエアとうきゅう 他全国公開

監督:クォン・ホヨン
脚本:ハン・ジュンエ
出演:チ・ジニ、イ・ジョンヒョク、ハ・ジョンウ、ユン・セア、パク・ビョンウン

2010年/韓国/110分/35mm/カラー
配給:CJ Entertainment Japan 

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『パラレルライフ』
オフィシャルサイト
http://www.parallel-life.jp/
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