『地球にやさしい生活』

鍛冶紀子
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電気がどこから来ているかなんて考えたこともなかった。自動車の部品が東北一帯で作られていることも知らなかった。食べ物の生産地には興味があったけれど、電気や工業製品の製造行程を知ろうしたことは一度もなかった。それらは完成品として在って当たり前だった。

3月11日以降、私たちはそれまで意識してこなかった「生産の現場」を知ることとなった。その最たるモノが電気。どこかで誰かが健康リスクを犯して働いて、その上で作り出されているモノだと意識していた人がどれだけいただろう。私たちが日々大量に消費する電気のために、こんなにも危険な装置が全国に54基もあることを知っていた人がどれだけいただろう?

食べ物もそう。被災地で再び漁に挑む人たちの姿、牛を置いて避難せざるを得なくなった人たちの姿、海水に浸った田畑を前に途方にくれる人たちの姿。テレビで流れる彼らの姿を見て、改めて自分たちの食卓に上がっている食べ物は、それらを育む海や大地があり、それらを育てる人によって賄われているのだと強く意識するようになった。これまで私たちはあまりにも過程を知らなさすぎた。

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『地球にやさしい生活』はそのタイトルの通り、徹底的に地球にやさしい生活を、1年の期限付きで送ったビーヴァン一家の話。どうやさしいのかというと、新しいものを買うのを止め、車やテレビを手放し、地元の食材のみで食生活をまかない、やがては電気も止める。生ゴミはミミズ入りのコンポストで処理し、お尻は不要になった布で拭き、娘の紙おむつはオーガニックの布おむつへ。夜はろうそくで過ごし、洗濯は浴槽で踏み洗いをする。ちなみに彼らは大都市ニューヨークのアパートメントに住んでいる。

この作品が今の日本人に染みるのは、スタート時は「使わない」「買わない」という"止めること"に始終していた一家が、次第に「作る過程を知ろう」と農家へ出向いたり、自転車に「エコという理由以上の楽しみ」を感じたりしながら、環境との関わり方を積極的に模索するようになり、一年を終えたころには"こうした暮らしがしたい"と希望を見出す点にある。机上ではなく、実験生活の末に語られる言葉には説得力があるし、楽しそうに過ごす一家の姿には思わず顔がほころぶ。

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今のままではダメだ、という意識はたぶん多くの人が持っている。だからといってどうしたらいいかわからない。みな右往左往しているのが現状だ。エネルギー問題、環境問題は、もはや個人が語るには規模が大きすぎる。ニューヨークタイムズのコラムニストは、彼らの実験生活に対し、「一人の人間にいったい何ができるのだ?」と批判的だったらしい。コリン・ビーヴァンに菜園を貸すメイヤー・ビシュナーは「君の奥さんは出版社で働いているね?それらの雑誌のために大量の紙が使われ、多くの森林が伐採されている。もし君がエコ生活でその穴埋めをしようと思っているとしたら、それはとんだ思い違いだよ」と言う。(妻のミシェルはビジネス誌のライターとしてバリバリ働いている)

メイヤーの意見に言葉を詰まらせたコリンは、やがて彼なりの答えを見つけるに至る。終盤のコリンとミシェルの言葉には、右往左往する私たちにとって具体的なヒントとなる要素がたくさんあって興味深い。コリンが語る「環境問題の多くは、相手の迷惑を考えない地域社会の崩壊が原因だろう」という論もうなずけるものがある。

今、地球との関わり方を考える上で必要なのは「過程を知ること」だと思う。そのモノがどうやって作られているのか、どうやって手元に来たのか、そしてどうなっていくのか。自分たちが出したゴミの行方は?店頭から消えていったモノたちの行方は?『地球にやさしい生活』はそれらの過程を少し見せてくれる。そして、何が必要で何が不必要なのかのヒントもくれる。どれをヒントと感じるかは人によって違うだろうから、ぜひ直接映画を観て判断してほしい。

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少し話が逸れるが、先日観たマシュー・ハーバートのライブ「ONE PIG」でも、「過程を知ること」の重要性が語られていた。マシュー自身による「豚日記」の「PETAへの回答」には、『地球にやさしい生活』とのいくつかの共通項が見える。みな気づき始めている。そこに小さな希望を感じたい。

福島原発の事故で、日本は環境問題以前の状態にある。かつて「安全」の代名詞だった「国産」という文字も、今は霞んで見える。オーガニックという言葉はこの国において生き続ける事ができるのだろうか。そんな状況下で、私たちはフードマイレージの意識を保つことなどできるのだろうか。メイヤー・ビシュナーは人類が生き残る確立を五分五分だと言っていた。「実際よくなっていることもあれば悪くなっていることもある」。日本の状況は悪くなっている一方のようにも思えるが、それでも生きている限りは良き方向を目指して努力しなくてはならない。エンドロールを追いながら、しばらく止めていた「段ボールコンポスト」を再開しよう!と思った。


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『地球にやさしい生活』
原題:NO IMPACT MAN

10月8日(土)より新宿武蔵野館・ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国順次公開!
 
監督: ローラ・ギャバート、ジャスティン・シャイン
出演:コリン・ビーヴァン、ミシェル・コンリン

© Oscilloscope Laboratories,2009

2009年/アメリカ/92分/アメリカンビスタ/カラー/ステレオ
配給:アンプラグド

『地球にやさしい生活』
オフィシャルサイト
http://yasasii-seikatsu.com/

















































































































































マシュー・ハーバート「豚日記」
http://www.hostess.co.jp/
matthewherbert/blog.html
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