『バード★シット』

上原輝樹
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カンヌ国際映画祭グランプリを受賞し、世界的な大ヒットとなった『M★A★S★H』(70)の勢いに乗じて、ロバート・アルトマンが好き放題に撮ったといわれる快作『バード★シット』が、1971年の公開以来約40年振りに劇場公開される。

1971年といえば、アメリカは泥沼化したベトナム戦争の真っただ中、ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョップリン、ジム・モリソンらロック・スターがドラッグのオーバードースで相次いで命を落とし、ウッドストックをハイライトとしたヒッピー・フラワームーブメントも徐々に翳りを見せて行く。ハリウッドでは、ゴダールの『勝手にしやがれ』(59)に影響を受けた『俺たちに明日はない』(67)をはじめとして、『卒業』(67)『ワイルド・バンチ』(69)『イージー・ライダー』(69)『明日に向かって撃て』(69)『真夜中のカーボーイ』(69)『いちご白書』(70)『ファイブ・イージー・ピーセス』(70)『ラスト・ショー』(71)といった当時のエスタブリッシュメントに反旗を翻す"アメリカン・ニュー・シネマ"といわれる一連の映画群が生まれた時代。ロバート・アルトマンの『バード★シット』は、そんな時代に作られた奇想天外なブラックユーモア満載のファルス(笑劇)である。

ハリウッドでの長編デビュー作『宇宙大征服』(67)にして、宇宙飛行士を欠陥のある人間として描き(その他にも、役者のセリフを敢えて被せて収録する等、リアリティを出すために今では普通に使われるようになった映画表現上の実験も災いし)、ワーナーブラザースのスタジオから追い出されたアルトマンのことであるから、本作の舞台がNASAの本拠地、テキサスのヒューストンに当時出来たばかりの巨大ドーム球場<アストロドーム>を舞台に、その地下のシェルターに住み自らの筋力を鍛え、セルフメイドの飛行装置を使って、鳥のように空を飛ぶという夢に取り憑かれた青年(バッド・コート)が主人公という設定からして、"月面着陸"に湧いた世間に対する、なんとも強烈な批判精神が伝わって来る。

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しかし、そこには痛烈な文明批判があるだけでなく、不可能と思われることに挑戦しようとする主人公の青年に対する、無軌道な若さを擁護するかの如きアルトマンのやんちゃな視線が注がれており、"ニュー・シネマ"の時代特有の虚無感に人間の体温を感じさせる泥臭さを加味している。そのアルトマンの視線は、謎の美人守護天使ルイーズ(サリー・ケリー)として具現化され、鳥のように空を飛びたいと願う以外は、いつでもどこか所在無げなブリュースター・マクロード青年を守ろうとするだろう。

altman_02.jpgこの青年を演じるバッド・コートは、『M★A★S★H』に出演した後、本作、『いちご白書』、『ハロルドとモード』といった"ニュー・シネマ"作品に立て続けに出演し、ゴールデン・グローブ賞ノミネートや歴代最年少でシネマテーク・フランセーズのオマージュ賞を受けるという輝かしい瞬間を生きるのだが、79年、ハリウッド・フリーウエイで交通事故に遭い、頭蓋骨骨折、顔面殺傷と生死を彷徨うほどの大怪我を負い、その後の病院治療のためにほとんど全ての財産を失ったのだという。その後、長期間のリハビリに耐え、現場に復帰、最近ではウェス・アンダーソンの傑作『ライフ・アクアティック』(04)でビル・マーレイ演じる船長ズィスーを長年支えた相棒役を演じ、新しい観客たちにも元気な姿を見せてくれた。"ニュー・シネマ"から21世紀の新しいアメリカ映画までの重層的に交錯した複数のシナプスの1本にバッド・コートという俳優の名前が記憶されていることは間違いない。

行く手を阻む悪人たちに<バード★シット/鳥の糞>による死の制裁を加える美人守護天使に守られ"夢"の実現に向けて荒唐無稽な歩みを進めていたブリュースター・マクロード青年だったが、アストロドームの受付嬢スザンヌによってもたらされた"性"のレッスンが全ての歯車を狂わせて行く。ブリュースターの"性"に溺れていく姿に幻滅した守護天使ルイーズは、彼を見捨てていなくなってしまう。彼女の助けなくして、青年は"鳥のように空を飛ぶ"という人類有史以来の夢を実現することができるのか、、、

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青年の運命を狂わせる天然ギャルのスザンヌを演じるのが、10年後に『シャイニング』(80)でジャック・ニコルソン演じるジャック・トランスの狂気に怯えきった迫真の演技を見せるシャリー・デュヴァル。本作の準備中に、たまたまヒューストンで発掘されたという彼女は、『シャイニング』の時とはうって変わって、その若さ溢れる瑞々しい容姿が実に魅力的で、70年代ならではのコケティッシュなメイクとファッションが目をひくのだが、本作への出演時点では演技の経験が全くないド素人で、このファンキーなアイメイクも、彼女がもともと自分で施していたものだという。彼女のファッションに限らず、当時のヒューストンの街並、70'sな看板や行き交う車など、この時代のアメリカのポップで不穏な空気感を捉えたドキュメントとしても魅力が尽きない。

71年の公開時は、アメリカでも日本でもさっぱり受けなかったという本作には、アルトマンとは、『ギャンブラー』(72)への楽曲を提供しお互いの作品のファンであることを公言しているレナード・コーエンが、「『M★A★S★H』はそれほどでもないが、『バード★シット』はベストフィルムだ」とアルトマンに語ったというエピソード(※)も残されており、もう既に監督本人は鬼籍に入ってしまっているが、今回の公開が少しでもリベンジになればよいと思う。

本作に続いて、同じくバッド・コートが主演した『ハロルドとモード/少年は虹を渡る』の公開も2週間後に控えているが、70年代の伝説的なアメリカ映画を公開していくというZiggy Films'70sのこれからの活動に期待したい。


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『バード★シット』
原題:BREWSTER McCLOUD

新宿武蔵野館にて 7月3日(土)より公開

監督:ロバート・アルトマン
製作:ルー・アドラー
脚本:ドーラン・ウィリアム・キャノン
撮影:レイマー・ボーレン、ジョーダン・クローネンウェス
録音:ハリー・W・テリック、ウィリアム・マッコウギー
編集:ルイス・ロンバルド
音楽:ジーン・ペイジ
出演:バッド・コート、サリー・ケラーマン、マイケル・マーフィー、ウィリアム・ウィンダム、シェリー・デュヴァル、ステイシー・キーチ、ジョン・シャック、ジェニファー・ソールト

1970年/アメリカ/105分/カラー
配給:日本スカイウェイ、アダンソニア

 (c)1970 Turner Entertainment  co.

『バード★シット』
オフィシャルサイト



『ハロルドとモード/少年は虹を渡る』
新宿武蔵野館にて 7月17日(土)より公開









































































































































※「ロバート・アルトマン わが映画、わが人生」
ロバート・アルトマン著
デヴィッド・トンプソン編
川口敦子訳
キネマ旬報社
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