『THIS IS ENGLAND』

上原輝樹
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イラク戦争並みに悪名高かった"フォークランド紛争"の、粒子の荒い記録映像とトゥーツ&メイタルズのラウドなサウンドトラックで始まる『THIS IS ENGLAND』は、シェーン・メドウズ監督の映像+音響センスの確かさを瞬時に察知させ、あっという間に観客を映画に引き込んでしまう。

映画は、1983年サッチャー政権下のイギリス、フォークランド紛争で父親を亡くした主人公の少年ショーンと労働者階級の若者たちの日々を描く。11才のショーンは、年長の二人のスキンヘッドと出会う。ひとりはスキンヘッドを音楽やファッションのカルチャーとして体現するウディ、もうひとりは刑務所を出所したばかりのギャングであり、極右組織ナショナル・フロント(英国国民戦線)のメンバー、コンボ。ショーンは、この二人の間でどちらに付くかの選択を迫られ、父親を戦争で亡くした怒りと悲しみから、極右思想の持ち主であるコンボと共に行動することを選択してしまう。自らの体験に基づいて脚本を書いた監督は、80年代当時、サッチャー政権下で社会から見放された失業率の高い地域の若者たちが、極右思想の格好の標的にされ、ナショナル・フロントのような排他的な組織に動員された事実を苦々しい晦渋の念とともに、本作の時代背景に取り込み、映画を骨太なものにしている。

ギャングのコンボと行動を共にするショーンだが、ある決定的な"事件"が起こり、自分の過ちに気付くことになる。"事件"とは、ある日、突然起きるのではなく、様々な小さな出来事の積み重ねの集積として起こるべきして起こるものだ。監督は、コンボが"事件"を起こすまでの、少しずつ絶望していくプロセスを繊細な手つきでフィルムに収める。コンボの不器用さは、『タクシー・ドライバー』(1976年マーティン・スコセッシ監督)のトラヴィスを思い起こさせる。ロバート・デ・ニーロ演じるタクシー・ドライバーのトラヴィスが、些細なきっかけから、身分違いにも思える知的な美女(シリル・シェパード)とのデートに漕ぎ着けるのだが、デート慣れしていないトラヴィスは、初デートで彼女をポルノ映画に連れて行き、あっさりフラれてしまう。コンボには、トラヴィスと同じ種類の痛ましさが漂っており、単純に極右思想のギャングという紋切り型のキャラクターとして描いていないところが、シェーン・メドウズ監督の脚本と演出手腕の確かさを物語る。

そして、何よりもラストシーンが素晴らしい。カメラは、デレク・ジャーマン鎮魂の地"ダンジェネス"を想起させる寒々とした野原の風景を捉え、80年代に青春時代を過ごしたものなら涙なしでは聴けないUKインディーズの雄、ザ・スミスの名曲が聴こえてくる。コンボと決別したショーンは、自分の選択の過ちを知り、父親の死が正当化されることがないことを知る。少年の悲しみはなくならないけれども、真実を知った開放感が一縷の希望として示される。その希望は、未来を担う少年の手によって、20数年を経た後、ひとつの傑作映画として結実するはずだ。


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『THIS IS ENGLAND』

3月14日(土)より、
シアターN渋谷 他、全国順次ロードショー!!

監督・脚本:シェーン・メドウズ
製作:マーク・ハーバートー
撮影:ダニー・コーエン
音楽:ルドヴィコ・エイナウディ
編集:クリス・ワイアット
衣装:ジョー・トンプソン
出演:トーマス・ターグーズ、スティーヴン・グラハム、ジョー・ハートリー、アンドリュー・シム、ヴィッキー・マクルーア、ジョセフ・ギルガン他

2006年/イギリス/98分/DOLBY DIGITAL/1:1.85/カラー
© WARP FILMS LIMITED、FILMFOUR、THE UK FILM COUNCIL、EM MEDIA、SCREEN YORKSHIRE
〈配給・提供〉キングレコード、日本出版販売

『THIS IS ENGLAND』
オフィシャルサイト
http://www.thisisengland.jp



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イギリス版ポスター

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