『バスキアのすべて』

鍛冶紀子
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2010年はジャン=ミシェル・バスキアの生誕50周年にあたる。彼が生きていたら50歳!その若さに愕然とする。現在活躍しているアーティストたちを考えてみると、「50歳はまだ若手」と言い切っても過言ではないだろう。しかしバスキアは生前に1250点を越えるドローイングと900点を越える絵を残した。彼がいかに生き急いだかがわかる。享年27歳。早過ぎる死だ。

バスキアといえば、96年にジュリアン・シュナーベルが撮った『バスキア』が記憶に新しい。いささかエモーショナルに描きすぎた感のあるシュナーベル版『バスキア』だが、そこで象徴的に描かれていたエピソードに偽りはなく、『バスキアのすべて』でもシュナーベル版に登場したエピソードの数々が今度は関係者自身の言葉によって語られる。

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監督のタムラ・デイヴィスはバスキアが亡くなった直後、バスキアに関する映像を全て引き出しにしまい込んだという。その理由は「ジャン=ミシェル・バスキアが最もがっかりすること、それは友人に捧げた自分の作品が売られることだったから」。本作が感動的なのは、タムラ・デイヴィスがバスキアへの確固たる友情心を持って、バスキアが非凡なアーティストであると同時に愛すべきひとりの青年であったことを伝えようとしている点にある。とにかくバスキアがかっこよかったこと。女の子にモテたこと。あらゆるセンスに秀でていたこと。ビバップが好きだったこと。野心家だったこと。寂しがりやだったこと。人種差別に苦しんでいたこと。アートの世界で正当な評価を受けたいと強く望んでいたこと。アイデンティティを求め、それを作品に描き表していたこと。

バスキアというアーティストがどのようにして生まれ、どのようにしてスターダムを駆け上がり、そしてドラッグに溺れて行ったのか。バスキアの27年間を追うことで、バスキアほどの才能ですら乗り越えられないほどに人種差別が根深く存在していたことがあぶり出される。当時のインタビュアーのバスキアに対する暴言はあまりにも心ない。

多くのミュージックビデオをてがけたタムラ・デイヴィスらしく、バスキアが持っていたあらゆる面をグルーヴ感たっぷりに、まるでコラージュするようにまとめあげている。バスキアとこの編集方法とがかっちりかみ合っていて気持ちいい。93分があっという間。

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とにかく、バスキアがキャンバスに向かう姿を観られるというだけでも十分に意味のある一本。ビバップをBGMに、ときに踊りながら、ときに無心に筆を動かす姿はほれぼれするほどかっこいい。また、熱気を帯びた80年代のニューヨークをダイレクトに感じられるのも本作の魅力。新しいカルチャーが続々と生まれ、混沌としていた時代。時折差し込まれる当時の映像はどれも刺激的だ。アート、音楽、ファッション、映画、あらゆるカルチャーの距離が近く、バスキア自身、バンドを組み、映画に出演し、ファッションショーにも登壇した。バスキアはあの時代の光と影を見事に背負った、まさに時代の寵児だった。

それにしても。カルチャーが細分化され、それぞれに垣根が生まれてしまった感のある現在、あの混沌はまぶしく映る。果たして今、バスキアのような才能が生まれる余地はあるのだろうか。


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『バスキアのすべて』
原題:JEAN-MICHEL BASQUIAT:THE RADIANT CHILD

12月18日(土)シネマライズにてロードショー!全国順次公開
 
監督・製作:タムラ・デイヴィス
製作・撮影:デイビッド・コウ
製作・編集:アレキシス・マンヤ・スプライック
製作:リリー・ブライト 、スタンレー・バクサル
製作総指揮:マヤ・ホフマン
撮影:ハリー・ゲラー
音楽:ジョシュア・ラルフ、アダム・ホロヴィッツ、マイク ・ダイヤモンド
出演:ジャン=ミシェル・バスキア、アンディ・ウォーホル、キース・ヘリング、ファブ・5・フレディ、ジュリアン・シュナーベル、ディエゴ・コルテス、トニー・シャフラジ、ブルーノ・ビショフベルガー、スザンヌ・マロック

All Jean-Michel Basquiat works (C) Estate of Jean-Michel Basquiat .Used by Permission. Licensed by Artester, New York

2010年/アメリカ/白黒&カラー/93分/デジタル
配給:CJエンタテインメント

『バスキアのすべて』
オフィシャルサイト
http://basquiat-all.jp/
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