『鉄男THE BULLET MAN』

浅井 学
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かき集めた鉄クズに埋もれたアパートの一室で、病的なほどの緻密さと気の遠くなるようなコマ録り撮影で制作された『鉄男 TETSUO(1989年)』が、第9回ローマ国際ファンタスティック映画祭のグランプリに輝き、その衝撃的な映像の洗礼を受けた熱狂的な"TETSUO"フリークを世界中に生み出した。あれから20年。海外での上映を基本に据え、セルフ・リメイクともいえる新たな『鉄男 THE BULLET MAN』が完成。ますます先鋭化した実験精神と尋常ならざるエネルギーを注ぎこまれ、再び、金属獣の咆哮と爆圧を全身で体感することになる。

舞台は東京。アメリカ人男性アンソニーとその家族の幸せな生活は、謎の組織によって最愛の息子を殺されたことによって激変する。何故息子は殺されたのか、その謎を追ううちに、アンソニーは解剖学者だった父が関与していたある研究に辿り着く。幼い頃から「決して怒りの感情を持ってはいけない」という父の教えを破り、怒りに我を失ったアンソニーの身体は"鋼鉄の銃器"へと変貌する...。

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『鉄男 TETSUO』と同様に、監督、脚本、原作、撮影、美術、特殊造形、編集、出演に至るまで一人で行い、"塚本ワールド"のディテールを徹底する。キーとなる"金属への変態"の映像にも、「CGはほとんど使わず、昔ながらのアナログの方法で撮影しました。本物の迫力が出せたと思っています(塚本)」というように、例えば『ターミネーター2』における液体金属製のT-1000が見せる、あの滑らかで洗練されたハイスペックな変形エフェクト表現(腕を硬貨させ鋭い剣にしたり、鈎爪の武器に変形させる)などとは一線を画すのだ。

さて、この"肉体の金属化"の表現に関しては、マンガの多大な影響を受けているのは監督自らがさまざまなインタビューで明らかにしているところである。最も語られるのは、時同じくしてカルト的な人気を博し80年代以降の漫画界に大きな影響を与えた(今も尚、その影響力はつづく!)大友克洋『AKIRA (1982年〜1990年)』。その物語においてキーマンとなる少年、その名も"島 鉄雄"が、空母や戦闘機へ肉体を融合して米海軍を混乱に陥れる、あるいは、内在する力のコントロールを失い肉体がコンクリートや鉄などさまざまな物質、つまりは"混沌たる世界"を次々に自らに取り込みながら、ある極点にまで暴力的に膨張し、自己解放というカタルシスを迎えるその様は、『鉄男』の構造そのものだ。「『AKIRA』のことを勝手に"お兄さん"って呼んでいる」とは、塚本監督の言葉。"鉄雄"と"鉄男"は、自己の崩壊と再生を象徴する、脆弱で悩み多きリアルヒーローとして同時代に生まれ落ちたのだ。

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また、町中の人間や動物が触れた金属物質などと融合し、1つの巨大な生命と化すという諸星大二郎の傑作『生物都市(1974年)』も監督自身が愛読していることから、『鉄男』への着想において大きな影響を与えた作品だと言って間違いないだろう。もう1作品、 "感情や記憶を持ってしまった産業機械"を主人公として描いた怪作、楳図かずお『わたしは信吾(1982年〜1986年)』に関しても、塚本監督は「ブツっぽい感じが好き」とその絵の魅力を語っている。塚本映画の映す生々しく黒光りする"鉄"は、何か得体の知れない生命体であるかのような錯覚を覚えさせる。それは、天才・楳図かずおの偏執的ともいえる緻密かつエロティックな機械描写にきわめて近しい印象だ。

世界中で熱狂的なファンを生み出す力を持つ作品が、同じく才気あふれる日本の創作物に影響し、反響しあって生み出されていくのは素直にうれしい。また、だからこそ世界の人々の心を捕らえるのであろう。ファンといえば、自身のミュージックビデオの監督依頼をするなど塚本晋也監督ファンを公言してきた、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーが、この最新作に共鳴。デヴィッド・リンチ監督 『ロスト・ハイウェイ』以来となる書き下ろしの新曲「THEME FOR TETSUO THE BULLET MAN」をエンディング・テーマとして提供し、その世界観と見事な融合を果たしている。この映像、音響体験のもと、また新たな熱狂的な"TETSUO"フリークを生み出すにちがいない。


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『鉄男THE BULLET MAN』

5月22日(土)より全国にて公開

監督・原作・美術:塚本晋也
シニア・プロデューサー:塚本晋也、豊島雅郎
プロデューサー:川原伸一、谷島正之
脚本:塚本晋也、黒木久勝
撮影:塚本晋也、志田貴之、林啓史
音楽:石川忠
出演:エリック・ボシック、桃生亜希子、中村優子、ステファン・サラザン、塚本晋也

2009年/日本/71分/カラー
配給:アスミック・エース

© TETSUO THE BULLET MAN GROUP 2009

『鉄男THE BULLET MAN』
オフィシャルサイト
http://tetsuo-project.jp/
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