OUTSIDE IN TOKYO
Albert Serra INTERVIEW

アルベール・セラ『ルイ14世の死』インタヴュー

2. 『ルイ14世の死』は私の映画の中で最も成功を収めた作品です。
 今までの様にオルタナティブな道を辿って東方三賢人とかドン・キホーテとか、
 そういうパイオニアのオルタナティブな方向に直進をしていると失敗するばかりです。

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OIT:全てをルイ14世の視点で描いたと今おっしゃられたのですが、マルセイユから来た医者ルブラン、彼は『私の死の物語』ではカサノヴァを演じていた俳優(ビセンス・アルタイオ)ですが、ルブランはその時代における科学とは違う、異教徒的視点を体現していたように思います。彼のキャラクターにセラ監督は親近感というか、何か共感出来るものがあると思っていませんか?

アルベール・セラ:確かに私は共感を持っているのかもしれませんけれども、いずれにしろあの時代、科学としての医学はまだ樹立されていなかったのです。医学が科学として形式を整えたのは19世紀になってからのことです。本当に科学として医学が考え始められるのが次の世紀、19世紀になってからのことなんです。ただこの時代にも医学の学会、アカデミーが存在していて、アカデミーを揶揄することが私は好きです。例えばブルアンが、パリ大学の先生を来させようと言うと、従医のファゴンは、大学の先生は大学の階段教室で教えているだけで、病院で本当に患者の治療にはあたっていない、そうしたアカデミー批判をします。この様に当初から同業組合、同業者を擁護する様な組織が存在していたということ、それを揶揄している部分があります。今おっしゃったマルセイユからやって来たイカサマ医師ルブランは、そうしたアカデミックなものに対してオルタナティブというか、少し非科学的とされるような科学の考え方を持っている人物ですが、彼は歴史的に実在した人物です。国王の病状が良くならないので絶望した宮廷の人々が、あの様なイカサマ医師、オルタナティブ医療の人を来させた、もちろんそれで上手くいきませんでしたが、その部分は歴史的事実です。

それから自分が面白いと思うのは、この映画のために作った部分ですけれども、おかかえ主治医のファゴンがマルセイユから来たルブランに対して、あなたのせいで国王の病状が悪化したと批判するところがあります。それは私の創作部分ですが、とても面白いと思っています。すなわち今日でも存在する様なアカデミックな知識と規範を離れた知識との対立が見られます。マルセイユから来たルブランが他の医師達と議論をするシーンがありますが、あの議論もなかなか面白いものになっています。医学の方法論について語り合っていますし、手術をすべきか、すべきではないかという議論をして、精神と身体との関係について語り合っている、精神の状態が身体の健康に影響をおよぼすということが言われている。特に私が気に入っている台詞は、患者に触らない方がいいという話をしている時に、他の医師がマルセイユの医師に対して言うのですけれども、あなたにとって病気とは身体を崇高にするものなのですねという台詞があります。この台詞を私はとても気に入ってます。あたかも病気がなにか魅力的で惹きつけられるものであるかの様です。

確かに私が今まで作ってきた映画から判断すると、私はむしろオルタナティブの側にいるのかもしれません。最初に作った映画(『騎士の名誉』06)はドン・キホーテに関するものでしたし、ドン・キホーテと言えばもちろん狂気のイマジネーションの方を選んだ人物です。次の映画(『鳥の歌』08)は東方の三賢人についての映画でしたが、東方三賢人は言わばパイオニアです。まだキリスト教が宗教として存在していない時に一人の子供を信じたわけですから。そしてその次がカサノヴァ(『私の死の物語』13)ですが、カサノヴァは言うまでもなくセックスや道徳に関して、また世俗にあることに対してオルタナティブな考え方を完璧に体現をしている人です。ルイ14世を選んで私は少し保守的になったのかもしれません(笑)。今までの登場人物よりも伝統的な人物になりました。けれどもルイ14世は伝統的であるとは言っても、やはりクレイジーなところがあり、あまりにも誇大妄想狂なところがあるので、その伝統性から逃れているかもしれません。『ルイ14世の死』は私の映画の中で最も成功を収めた作品です。登場人物のルイ14世が伝統的な人間でありますから、映画自体も今までの作品に比べて完璧な仕上がりになって、閉ざされた形になっています。またルイ14世は登場人物として有名であり、人気があって正常です。そこで映画は成功を収めたのでしょう。今までの様にオルタナティブな道を辿って東方三賢人とかドン・キホーテとか、そういうパイオニアのオルタナティブな方向に直進をしていると失敗するばかりです(笑)。

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