OUTSIDE IN TOKYO
AMOS GITAI INTERVIEW

アモス・ギタイ監督特集 アモス・ギタイ インタヴュー

2. 非政治化されている、大きなイデオロギーの欠落の逃避先として、
 消費社会というのは非常に便利なものなのです

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OIT:新作の『幻の薔薇』が素晴らしかったのですが、マルジョリーヌというキャラクターが、1950年代に小説で書かれていること自体(ボーヴォワールら、フェミニストの登場以前という意味で)驚きではあるのですが、むしろ、消費社会に慣れ切った現在では、余計に書かれ得ない作品だという気もします。
AG:そうかもしれません。

OIT:同時に、日本では構造的な不況が長期間続いており、若者が職につけず、その消費社会から脱落しかけているとう現状が生まれてきています。イスラエルではそういう状況は生まれていませんか?
AG:それは、全世界的に起きている現象だと思います。

OIT:若い世代が、不景気の煽りを直接的に受けて犠牲になっているという現状がですか?
AG:全世界的に、ほとんどの国で、人口全体として、非政治化されてしまっている。その非政治化されている、大きなイデオロギーの欠落の逃避先として、消費社会というのは非常に便利なものなのです。今や、世界の大部分がいわゆるPTSD状態、ポスト・トラウマ状態なのです。世界中のほとんどの国で大きな戦争であるとか、大きな衝突があった歴史が近い過去にあるわけです。その結果として、消費文明の背後に高度な資本主義的な構造があるわけですけれど、それが大きな成功を収めるのは当たり前だろうと思うのです。

OIT:監督の映画は、そうしたアクチュアルな問題をいつも扱っていますね。
AG:過去というものは単なるノスタルジーとして興味を持つものではなく、現代について興味深いコメントをしてくれるものだと思います。

OIT:一方、監督の映画には、男女のエロティックなシーンも印象的に登場します。『幻の薔薇』のレア・セドゥに関しても、とても美しいセクシュアルなシーンがありました。監督のセクシュアリティやエロティシズムに対するスタンスはどのようなものでしょう?
AG:まず時代劇を撮る時には、非常に簡単な手法になるわけです。つまり、人間の身体自体は昔も今も変わっていないのですから(笑)。

OIT:『キプールの記憶』のボディ・ペインティングのセックスシーンも非常に印象的でした。
AG:なぜならば、戦争が愛の行為に断絶を突きつける、断絶させてしまうからです。

OIT:もちろん、私たち観客はそうした美しいシーンを素晴らしいと思いながら拝見しているわけですが、そのセクシュアルなシーンがその文脈の中にないと、ご自分の中では映画が成立しないから、そこに存在しているといことでしょうか?
AG:そうです。

OIT:それは対比をもたらす為の意図もあったのでしょうか?
AG:もちろん、そういう時もあります。

OIT:それは観客との距離を作り出すものでもありますか?
AG:距離ではないけれども、ある種反発的なものではあります。

OIT:『幻の薔薇』のレア・セドゥの場合は、そのような形ではなく、自然に物語の流れの中で、映画のグラマラスなものとして登場したように見えましたが、彼女をキャスティングした理由はどのようなものでしたか?
AG:彼女が素晴らしい女優だからです。

OIT:役者を決める時の基準はどのようなものですか?
AG:私はもはや、オーディションというものをやりません。こういう風な形で会話をするわけです。自分が話していて興味が持てるかどうか、頭が良いかどうか、会話をしたいかどうか、そう思えば、採用するし、思わなければ採用しない。レアは、とても良い人間だし、頭も良く、とても自由な考え方を持っているから、このまま自分の仕事に対する規範とキャリアを築き続ければ、大変に偉大な女優になるかもしれない。

OIT:彼女とまた仕事をしたいというお気持ちはありますか?
AG:もちろん。

OIT:物語の要請に応じてということですね。
AG:そうですね。

OIT:近年は特に、国際的に有名なキャリアを持った俳優を多く使われていますが、それは作品に良い作用を与えていますか?
AG:もちろん。ジュリエット・ビノシュやナタリー・ポートマン、ジャンヌ・モローといった女優たちと映画を作る一方で、ヤエル・アベカシスやリロン・レヴォ、ユーセフ・アブ=ワルダといったイスラエルの以前から知っている俳優たちも使っていますので。

OIT:そうした良く知られた俳優たちと仕事をすることのメリットはありますか?
AG:プロジェクトによって違います。

OIT:女優には知的であることを求めるのですか?
AG:知的であることではなく、知性があることを求めます。



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