OUTSIDE IN TOKYO
KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

アルノー・デプレシャン『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』来日記者会見

3. 青山真治監督には美しいものに対する貪欲さがありました

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質問:冒頭のお話で青山真治監督のお名前が出たので、お聞きしたいのですが、彼は1年半前に亡くなってしまいましたが、青山監督との思い出をもう少し具体的に教えて頂きたいということと、(デプレシャン監督が考える)青山監督の魅力を教えて頂ければと思います。
アルノー・デプレシャン:まず映画監督としての青山真治さんのことをお話しさせて頂くと、彼には美しいものに対する貪欲さがありました。彼が若い時に撮った『ユリイカ』は本当に傑作だと思っています。何一つ削るところもなく、何一つ付け加えるところのない、完璧な傑作なのです。先程、クローズアップの顔の話をベルイマン監督のところでしましたけれども、青山真治監督というのは映画監督として、“美しさ”というものに酔い痴れることのできる映画監督だと思います。そして、私は幸いにも、人間としての青山真治さんを知ることもできました。唯一、私が行ったカラオケは、彼と一緒だったんです。彼はすごく酔っ払って、本当にちょっとクレイジーな感じで、あまり分別のない感じになって、人生というものを貪っているような、とても力強い側面を、人間性豊かな場面を見せることで、私に教えてくれたわけなんです。彼は映画の中でも、勇気を出してやるんだ、人生の中でも、勇気を出してやるんだという、そういう態度を映画監督として、人間として、私は彼から教わりました。青山真治監督の中には、とても矛盾した様々なものが共存しているのです。一人の人間の中に、とても人見知りな側面、人馴れしていないような側面と、とっても穏やかな部分が共存しているということに、私はいつも驚かされていました。また、美しいものに対する心を持ちながら、とてもロックな側面もありますよね。そうしたところに、私は魅了されていました。

質問:これは皆さんの誰もが感じていることだと思いますが、マリオンさんとメルヴィルさんが大変素晴らしくて、とても短い時間では語りきれないことだとは思うのですが、今回、監督がお二人について感じられたことを少しお話頂けますでしょうか。
アルノー・デプレシャン:私は映画の脚本を書く時は、出来るだけ充て書きはしないようにと、自分に言い含めています。何故なら、人物像というのは、複雑であれば複雑であるほど、そのキャラクターは興味深いものになると思っているからです。ですから、私は脚本を書く時は、現存している、生きている役者たちのことは思わないようにしようとしています。でも、もうすでに亡くなっている役者なら、例えば、ジェームス・スチュワートとか、イングリット・バーグマンといった、かつての俳優たちを思い浮かべることはあります。そういう風にしているのは、ちょっとした迷信というか、自分の中ではそうした方が良いという思いがあります。それで今回のアリスに関しては、誰が一体アリスを演じられるのだろうかと考えた時に、やはり、マリオンのことが真っ先に頭に思い浮かびました。マリオンというのは、今まで本当に素晴らしい役柄を沢山演じているにも拘らず、映画の中では子供らしさ、あどけなさ、あるいはとてもシンプルな素朴さ、といったものをずっと持ち続けている人なんですね。ですから、彼女が映画に出る時は、どのように彼女が演じようが、私は全て許すことが出来る、彼女に何らかの評価をつけたりということはしない、そういう風な気持ちになれる人なんです。彼女は自分が演じる人物に、子供のような無垢さ、純粋さといったものをもたらすことが出来る。そして、今回の作品のアリスですけれども、遠目に見れば、一人のちっちゃな女の子がバカなことをやっている、そういう風なキャラクターですよね。それに対して、マリオン・コティヤールが自分の持っている、その子供っぽさをアリスに付け加えることが出来ると思って、マリオンに演じてもらったわけです。

メルヴィル・プポーのことは昔から良く知っていて、『クリスマス・ストーリー』でも端役ではありますけれども、一緒に仕事をしたことがあります。彼のデヴュー作品は、やはり、ロメールの『夏物語』(1996)で、ロメールの傑作の一つ、あの時代のフランス映画のベスト10に入るような作品ですよね。あの映画での彼の存在感は素晴らしかった。若々しさと生意気さが共存していて、こういう息子がいたらいいな、こういう彼氏がいたらいいな、そういう人物を彼は体現していましたよね。でも、年を重ねるに連れて、彼には深みが増してきたんです。それで、私は、彼を起用している他の監督たちに、本当にジェラシーを感じていたぐらいなんです。それなら僕は、悲劇性を感じさせる、ドラマティックな側面を彼に演じて欲しいという気持ちがあったわけです。今回のルイという役柄は、酒浸りで、ドラッグもやるし、無作法だし、粗野な言葉を吐くし、ちょっと突拍子もないこともする、でもそれをですね、今の彼の深みがあるからこそ演じることができる、そういう等身大の役を彼にオファーすることが出来て、私はとても誇りに思っています。


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