OUTSIDE IN TOKYO
BAHMAN GHOBADI Interview

バフマン・ゴバディ『ペルシャ猫を誰も知らない』

3. イランでは、女性が歌ってはいけないんです。おかしいと思いませんか?

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OIT:ひとつのコンサートをやり、ロンドンに行くという目的のために、若者たちが立ち向かうという、ある意味、爽やかで疾走感あふれる構成もあると思うのですが、実際、撮影の構成自体は、自分の中でどこまで事前に決めていたのですか?
BG:(撮影は)2週間しかなかったのですが、主人公のアシュカンとネガと出会う前に、いくつかのバンドの人たちとまず知り合い、作品化しようと思い立ったんです。それは(映画にも登場する)ラッパー(のグループ)ですが、彼がアシュカンとネガを紹介してくれたのです。そうして彼らに出会った時に初めて彼らについての映画を作ろうと思いました。彼らは刑務所を出所したばかりで、18日後にはロンドンへ発つ予定だったのですが、映画の話をした時に、18日間しかイランにいないけど、その間に映画を完成させるという話になり、本当に彼らと新しいバンドを作りたくて、いろんな人を探して、2人と一緒に転々としながら、色々なところへ行って撮影したのです。彼らを手助けする人物がいるのですが、その役柄は私にとても似ていて、人を助けたい。でも時と場合によって、それが現実にできないこともある。なのに、それができないとは告げずに、「大丈夫、大丈夫」と励ましたりする。それが嘘だとしても、まあ、結局、嘘なんですけど、それも彼らのためだと、励まそうと思って言ってしまうんですよね(笑)。

OIT:ところで、彼らの音楽はインディ・ロックですが、音楽の多様性を、見せていますし、爽快に楽しめた部分もあるのですが、なぜイランでインディ・ロックでなければいけないの、という意見もあるかと思うんです。それをグローバリズム的な視点で批判する人もいるかもしれないことに、監督はどう思いますか?
BG:映画でなぜインディ・ロックなのかということ?

OIT:例えば、タイでもメキシコでも、南米やアフリカへ行っても、ある種の音楽に反応する人たちは必ずいて、それはとても共感できるし、居心地がいいんです。ただ、同じものに反応することで、似通ってしまう部分もあるとは思うのです。もちろん、監督は伝統的な顔も見せていて、バランスをとっていますが、監督自身はそれをどう見ているのでしょうか。
BG:なぜインディ・ロックか…?たぶん(映画の中には)10種類ほどの音楽があると思うんです。ラッパーがいて、ヘビメタ、ポップス、それにもちろん伝統的なイランの音楽も採りあげていますが、そのバンドにしても、イランにいても、なかなか彼らと出会うことはないと思うんです。なぜなら、結局、彼らは、身を隠しながら密かに活動していて、音楽をやっている人は、まあ、いること自体は分かるのですが、みんなに知られていないんです。次の作品では、イランの伝統音楽を採り入れたいと思っています。まあ、それもまた許可されないと思うのですが(苦笑)。なぜかというと、イランでは、女性が歌ってはいけないんです。おかしいと思いませんか?私はそう思いますし、ふつうの人もそうだと思います。母親の子守唄から広がり、私たちは常に女性の声を聞いているんです。生の(女性の)声を。でも政府はだめだと言う。要は、女性が歌うと、男が、はっきり言えば、興奮したりするからです。私が思うに、興奮する方がおかしいじゃないかと(笑)!そっちが病気なのであって、病院に行かなければいけないのはその人です。ふつうは女性の声を聞いただけで興奮しないでしょ?まあ、これはひとつの例に過ぎませんが。

(そんな中、見知らぬ人が画面の中に入ったりするようになる)
BG:すみません。ここはゲストハウスのような場所で、色々な人が出入りしているので、申し訳ないです(笑)。

OIT:いえいえ(笑)。ところで、ロンドンへ出国した彼らとは連絡をとっているのですか?
BG:彼らとはよく連絡をとっています。この映画に出て来た他のバンドの人たちも、アメリカやインド、オランダやフランスにいて、状況が変わったらイランに帰ろうとしています。そしてイランに留まっているバンドもいくつかありますが、彼らともたまに連絡はとっています。私にできることは、例えば、ビザの手続きとか、フェスに参加する時に手伝うとかしかないのですが、私にできることはできるだけしたいとは思っています。
映画の公開に寄せたメッセージで書いたように、今回、来日できなかった理由は、イラン政府が私にイランのパスポートの更新許可を出さなかったからです。なので、本来なら、直接会ってインタビューを受けたかったのですが、ぜひみなさんにお願いしたいです。この映画を見て頂きたいということ。そしてもし感動したり、いい作品だと思ってもらえたなら、ぜひ友人や知人に勧めていただけるとうれしく思います。それだけです。



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