OUTSIDE IN TOKYO
BAHMAN GHOBADI Interview

『酔っぱらった馬の時間』でカンヌ映画祭(2000年)のパルムドールを受賞し、『亀も空を飛ぶ』でも知られるバフマン・ゴバディは、日本にいる僕の目の前にいるはずだった。だが言葉を交わす彼は途切れ途切れのSkype映像の向こうで語っていた。イランのパスポートの更新許可が下りず、待望の来日が中止になったのだ。そしてイランのアンダーグラウンド・ミュージックシーンを扱った新作『ペルシャ猫を誰も知らない』がイラン当局に目をつけられ、現在はイラクのクルド自治区に亡命しているという。イラクとの国境近くの町、バネーで育った彼は、イラン人であり、クルド人である。そして初めてのクルド語の映画を撮った彼は、当局に収監されて出所したばかりでロンドンのインディ・ロック・シーンに身を投じるために国へ出る若い男女、ネガとアシュカンとの出遭いから、隠れて各々の音楽を続けるイランのアンダーグラウンド・シーンを撮ることにした。金もコネもない2人がパスポート、ビザを手に入れるために紹介されたのは、海外DVDを売り歩く“何でも調達屋”のナデル。彼は2人の出国前にライブを開くべくだと主張し、バンド調達を引き受ける。かくして2人は、彼を水先案内人としてアンダーグラウンド・シーンへの旅に巻き込まれていく……。アッバス・キアロスタミ映画の俳優としても出演し、今作にも音楽好きの映画監督として出演している彼に、現在の状況を聞いてみた。

1. 映画を通じて今のイランの人々が抱えている問題をみなさんに知らせたい

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):まず、あなたの現在いる状況を教えていただけますか?
バフマン・ゴバディBAHMAN GHOBADI(以降BG):私は現在、イランを離れて15ヶ月ほどになります。その間、一度もイランに帰国していません。ここ10から12ヶ月の間は様々な(場所で)住まいを転々としていて、そのために色々な国へ行きました。でも今はイラク北部のクルディスタンの町に身を寄せ、今後、しばらくの間はここで生活しようと考えています。どこかに家を借り、事務所も借りようと思っています。いま現在、私は友人宅で世話になっていて、ここは母国ではないけれど、私と同じクルド人、つまり同じ民族で、クルド語で会話ができることは、ある意味、安心して暮らしていけるのですが、残念ながらイランにいない寂しさは否めません。今は私一人で、ここ3週間、ほとんど外出していません。それは別に治安が悪いとかではなく、自分としては新しいバフマン・ゴバディを探し求めている段階で、別の自分、つまりイランというものを差し引いたバフマン・ゴバディは一体どういう人間なのかということを少し考えたいのもあって、ずっと一人で友人の家にいる状況です。

OIT:これまでの創作でも、今でも、やはりイランは欠かせない要素ですか?
BG:そうですね。私はイラン人で、イランで生まれ育った人間ですから。母はクルド人ですけどね。イランはとても美しい国です。そしていろんな民族のいる、他民族国家です。イランの美しさや魅力は、いろんな民族が暮らしている国だからこそ感じます。私はイランを愛しています。イランの地図の形を見れば分かると思いますが、猫の形をしているんです!なので、失いたくない、国家に渡したくないという気持ちもあります。イランの文化や歴史はとても古いですし、結局、イランの国民、つまりイラン人、それはペルシャ民族、クルド民族を併せた人たちのおかげで今の私があると思うんです。自分の中で線を引いて、どこの人、どこの民族という考え方はしたくないです。私は映画を通じて今のイランの人々が抱えている問題をみなさんに知らせたい、見せたいという思いで、今まで映画作りをしてきましたし、今後もそうしていきたいと思っています。

OIT:家の外の状況はどうなっているのですか?どのような地区にいて、窓からは何が見えますか?
BG:では、見せたいので、映像をオンにしてください。(そう言うと、パソコンを持って回ってくれる。広い家だというのが見てとれると同時に、外のテラスも映し出される。大きな壁の向こうに緑が広がる)

OIT:あっ、大きいですね!
BG:ここはオフィスです。そしてここが私の部屋です。

OIT:その家はあなたを支援してくれている人のものですか?
BG:ここはイラクで私を支援してくれているバルザニという人の家です。わりと高台にあって、樹々や、先ほど庭が映ったと思いますが、樹や緑も多少あり、暑いけど、結構さわやかな風も吹きます。イラクはこの時期とても暑いのですが、家が高台にあるため、ちょっと涼しい風が吹くんです(笑)。
バルザニ氏は私を個人的にサポートしてくれている友人ですが、今いる場所は人口がとても少ない、20万人ほどと思いますが、ほんの小さな町です。あまり外出はしていませんが、まあ、それは一人になって考えたいからというのもあって、先ほど見せた場所(テラス)で1日2時間ほど運動して、なるべく身体を動かすようにしています。今は次の作品のことを考えていて、イラン人の若者についての映画を作りたいと思って脚本を書いているところです。そしてクルドの映画祭を取材したいとも考えています。


『ペルシャ猫を誰も知らない』
原題:Kasi Az Gorbehayeh Irani Khabar Nadareh

8月7日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー

監督:バフマン・ゴバディ
脚本:バフマン・ゴバディ、ロクサナ・サベリ、ホセイン・アブケナール
撮影:トゥラジ・アスラニー
編集:ハイェデー・サフィヤリ
製作:ミジ・フィルム
出演:ネガル・シャガギ、アシュカン・クーシャンネジャード、ハメッド・ベーダード

2009年/イラン/カラー/106分/HD 35mm/1:2.35/ドルビー
配給:ムヴィオラ

『ペルシャ猫を誰も知らない』
オフィシャルサイト
http://persian-neko.com/
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