OUTSIDE IN TOKYO
JAPAN PREMIERE

2016年1月22日、六本木ヒルズの巨大スクリーン、スクリーン7で行われた『キャロル』ジャパン・プレミアに、今、ハリウッドでも最も輝いている女優ケイト・ブランシェットが来日、日本からは、国際映画祭での受賞経歴を持つ女優寺島しのぶが応援に駆けつけ、舞台挨拶に華を添えた。

定刻通り、ケイト・ブランシェットの登場を司会のクリス・ペスラーが告げると、ジョー・スタッフォードの「No Other Love」が会場の空気を揺らし、ブランシェットが客席左奥の通路から現れる。満員の観客で埋め尽くされた客席中央を横切る通路に敷かれたレッドカーペットを踏みしめて歩く彼女は、幾つかのサインに応じてから、満員の客席の中央附近でその歩みを止めると、落ち着いた物腰で手を腰に置き、観客に視線を返す余裕を見せる。目映いばかりのスポットライトを浴びる彼女の立ち姿は、時代錯誤を承知でつい、見る者に“神々しい”と呟かせてしまうほどの輝きで、21世紀の六本木ヒルズを“映画的”としか形容しようのない空間に変容してしまう。そんな映画の神様が舞い降りたような夜に、ケイト・ブランシェットが披露してくれたのは、ユーモアと機知、遊び心に満ちた会話と、ステージを舞う風船を蹴り上げるチャーミングな立ち居振る舞い、そして、映画『キャロル』を何の飾り気もなくシンプルに表現した、 “Labor of Love”(※)という気高い言葉だった。

(※) “Labor of Love”とは、物理的な”報酬”を超えて、”愛情”が注ぎ込まれた仕事を指す表現だが、ここで『キャロル』という希有な作品についてケイト・ブランシェットがこの言葉を使っていることには、それなりの意味があるだろう。これは、監督のトッド・ヘインズがインタヴュー(Sight & Sound, December 2015)で明かしていることだが、『キャロル』のプロジェクトには、ハリウッド映画の相場からみて、作品の豊かな印象が与えるほどには、潤沢な予算が注がれたわけではなかった。モンテ・ヘルマンの『果てなき路』(10)を想い出してしまうエピソードだが、製作現場の最後3週間は、常に債券会社の人間に見張られている状態だったのだという。実際、公表されている予算の額を見てみると、トッド・ヘインズが同じく50年代を描いた、過去の作品『エデンより彼方に』(02)よりも、『キャロル』の方が予算は少ない。それにも関わらず、ハイスミスの原作、製作のエリザベス・カールセン、ケイト・ブランシェット、フィリス・ナジーが手掛けた素晴らしい脚本、衣装のサンディー・パウエルらの元に、トッド・ヘインズ、ルーニー・マーラを始めとする、映画界の錚々たる顔ぶれが集結したのだ。こうして作られた作品を表現すべく語られたのが、彼女の “Labor of Love”、「愛で作られた作品」という言葉だった。


1. この場にひとりで立っていることが心細いです

1  |  2  |  3



クリス・ペプラー:いよいよ日本での公開を2月11日に控えました本作『キャロル』ですが、『太陽がいっぱい』(60)のパトリシア・ハイスミスが実名出版出来なかった大ベストセラーを60年以上の時を経て、今回初めて映画化され、今世紀最高の愛の名作と言われています。そして先日発表された第88回アカデミー賞でも主要六部門にノミネートされ、大変話題となっております。中でもケイト・ブランシェットが主演女優賞、そしてルーニー・マーラが助演女優賞にノミネートされ、ダブル女優賞の受賞に期待がかかっています。1950年代のニューヨークが舞台となっているこの作品、その時代の女性同士の愛を美しく、そして切なく描きあげています。1952年のニューヨーク、高級百貨店のおもちゃ売り場で働くテレーズは、クリスマスで賑わう売り場でキャロルと出逢います。テレーズは美しく魅力的なキャロルから目が離せなくなり、憧れを抱き、やがて二人は惹かれあうことになっていくわけです。私も先日この映画、拝見させて頂いたのですが本当に素晴らしかったですね、ケイト・ブランシェット、そしてルーニー・マーラの本当に素晴らしい演技、そして時代を超越した不変の愛のストーリー、さらに50年代のニューヨークを描いた美術、そして素晴らしいファッション、本当に見応えたっぷりの作品でございます。それでは主演のケイト・ブランシェットさん、来日しております。3度目の来日ということなのですが、映画のイベントでの来日は今回が初めてとなるということですね。映画『キャロル』主演のケイト・ブランシェットさんの登場です。皆さん大きな拍手でお迎えください。

それではケイトさん、日本のファンの皆さん、マスコミの皆さんにご挨拶をお願いいたします。
ケイト・ブランシェット:皆様、こんにちは。こんなに温かくお迎えくださって、本当に嬉しいです。ちょっとこの場でひとりで立っていることが心細いです、この作品はやはり、監督、そして共演のルーニー、キャメラマンのエド、衣装のサンディ、そのほか作曲家、ヘアメイクさん、様々な方のたくさんの力で作られている作品だからです。けれどもこの作品『キャロル』を、とても誇らしく思っていますので、皆様が今日、ここにいらしてくださったことを、大変嬉しく思っています。

『キャロル』
英題:CAROL

2月11日(祝・木)全国ロードショー

監督:トッド・ヘインズ
原作:パトリシア・ハイスミス
脚本:フィリス・ナジー
撮影:エド・ラックマン
製作:エリザベス・カールセン
衣装:サンディ・パウエル
美術監督:ジュディ・ベッカー
音楽:カーター・バーウェル
音楽監修:ランドール・ポスター
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、カイル・チャンドラー、ジェイク・レイシー

2015年/イギリス・アメリカ・フランス/118分/カラー
配給:ファントム・フィルム

(C) NUMBER 9 FILMS(CAROL)LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

『キャロル』
オフィシャルサイト
http://carol-movie.com
1  |  2  |  3    次ページ→