OUTSIDE IN TOKYO
DAMIEN MANIVEL INTERVIEW

ダミアン・マニヴェル『若き詩人』インタヴュー

4. “ポール・ヴァレリーの墓”は偶然の産物でした

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OIT:両方の作品とも、レミがいつもお酒を飲んでいるわけですが、これは極めて自然な日常風景であると、お考えでしょうか?
ダミアン・マニヴェル:『犬を連れた女』では、何か人の体調を表すもの、ちょっとほろ酔い加減の感覚、そうした作品の雰囲気の一部として使っている感じですが、『若き詩人』では、事情が全く違ってきます。僕自身、サケを飲むのが大好きなんですけど(笑)、酔っぱらうと結構お馬鹿をしてしまう。ある日の午後、友達と一緒にダンス・ショーのシナリオを書いてたんですけど、アイディアが湧かなくて煮詰まってしまったので、まだ午後の早い時間だったんですけど、酒を呑み始めたんです、そして、大量に呑んでしまった。結局、完全に酔っぱらってしまって、何も書き上げることは出来なかった。レミは、18歳ですから、まあそういうことも起こりえますよね。

OIT:『若き詩人』には、そうしたご自分の体験が、そこかしこに盛り込まれていると。
ダミアン・マニヴェル:そうです。でも考えてみると、アーティストであろうとする、クリエイションを行おうとする何者かの映画を作るというのは、とても奇妙なことです。なぜなら、もったいぶった嫌な奴になったり、僕自身のどうでも良いことを披露する露悪趣味に陥ったりしてしまうリスクが常にあるわけですから。ですから、自伝的要素があることは確かですが、シリアスな側面というよりは、むしろ、コミカルであったり、ファニーであったり、そういう部分に自分の一部が入り込んでいる感じです。レミが演じる人物は、多分にコミカルなところがありますから、主にそうした部分に僕のコミカルな側面が映り込んでいるのだと思います。

OIT:ここは笑わせよう、と意識して作った場面はありますか?
ダミアン・マニヴェル:ありますね。

OIT:レミが抱きつくシーンとか?
ダミアン・マニヴェル:そうです!僕らは、あのシーンを“バンパイアのシーン”って呼んでるんです(笑)。実は、レミのもっとコミカルなシーンも撮影したんですけど、編集でカットしてしまいました。レミと一緒に仕事をしていると、何か可笑しなことをしたくなる、そういう誘惑に駆られます。それは彼自身にそういう資質があるから。だから、映画にコミカルな味わいがあるのはレミのおかげですね。レミのおかげで、この映画にユーモアの感覚が存在するということを、僕は発見したわけですが、そのこと自体がとても嬉しかった。僕の映画で人を笑わせることが出来るなんて、本当に最高です。映画作りのプロセスは、結構孤独で、険しい道のりですから、悲しい気分になったり、自分の場合は、時に真面目になり過ぎてしまったりするんです。もっと苦しまなければいけない!とか、まだ苦悩が足りない!とか。

OIT:ちょうど『若き詩人』のように(笑)。
ダミアン・マニヴェル:そう!だからこそ、“明るさ”に救われるんです。

OIT:スタッフと現場で撮影している時間はハッピーな時間ですか?
ダミアン・マニヴェル:彼らは僕を驚かしてくれるんです。僕は驚かされることが大好きなんですよ。でも、撮影自体はクレイジーなことなので、ハッピーというよりは、いつも大変な思いばかりしています。よく、一体僕はなぜこんな苦労ばかりしているんだろうって思うんです。寝る時間もないし、とにかく狂ってます。まったく現実離れしています。

OIT:『若き詩人』には、ポール・ヴァレリー美術館が出て来て、ヴァレリーには「海辺の墓」という詩集もありますが、その墓も出てきます。それは、意図的な選択だったのでしょうか?
ダミアン・マニヴェル:実は偶然なんです。僕はあの街を以前から知っていたので、まず、あの街を撮る、というのが最初のアイディアでした。友達がその街に住んでいたので、夏になると、よく彼女のアパートメントを借りて、シナリオを書いたりしていたんです。そうしている内に、そこで撮影をしたくなったので、彼女に電話をして、そのことを伝えました。彼女は、それは素晴らしいアイディアね、部屋は自由に使ってくれていいし、街も美しい、奇麗な墓地もあるし、きっと最高の映画になるわ、と言ってくれたんです。そこで僕は、ふ〜む、墓地か、と思ったんですね。OK、レミが“若い詩人”を演じる、そして、ポール・ヴァレリーのお墓もある、これで行ける!と。わずか30分の内にすべてが決まったという感じでした。



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