OUTSIDE IN TOKYO
JEAN-PIERRE & LUC DARDENNE INTERVIEW

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ『少年と自転車』インタヴュー

2. 身体的な訓練を繰り返すことによってトマはシリルの中に入り込んでいくことが出来た

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Q:これまでの監督の映画と違って、そんな太陽に象徴される明るさというか、前向きさ、希望をこの映画で感じさせる転換となったのはどこかあるのでしょうか。
D:完全に私たちが変わった転換期があったとは思いません。『ある子供』にしても、最後のシーンで2人が泣いていましたが幸せです。また『ロゼッタ』にしても、リケとロゼッタが互いを見出しています。ですから、今回は違うストーリーを語ったということではないでしょうか。私たちが今回語ったのは子供と一人の女性との愛の物語です。ただ、愛の物語であるという点が違うと思います。他の映画よりも明るくなっているとは私は思いませんし、他の映画においても、それほど絶望で映画は終わっていません。例えば、主人公をラストで殺すようなことを私たちは一度もしたことはありませんし、私たちの作品の中で一番暗くて悲観的な映画といわれる『ロルナの祈り』にしても、最後のところでロルナは空想上の子供と一緒にいて、以前とは違う女性になり、クローディに本当のことを言わなかったことを後悔している。彼女自身が変わったのです。こうして彼女自身も変わっていますから、決してこれは悲観的な終りではありません。

Q:その時代の空気が変わったとか、そういうことを感じるわけではないですか?
D:ノー(です)。

Q:(シリル役の)トマ・ドレがとても印象的で素晴らしい演技をしていました。一ヵ月のリハーサルをしたということですが、その間にどのようなリハーサルだったのかということ。トマが逃げ出したり、ここはやるのがいやとか、そういうことを言ったことがあったのでしょうか。現場でどこの場面がトマの演技で一番印象に残った場面でしたか?
D:脱走しようとしたのですが、杭に結びつけて縛っておいたので脱走はできませんでした。仕事しなければ食事も与えなかったので(笑)。もちろんギャラも払いません(笑)。ですから本当に絵に書かれた姿のようにおとなしい子でした。本当に厳しい親として彼に接したのです。

Q:こうやって笑わせていたのですか?
D:だから彼はあんなにいい演技をしたのです(笑)。まずリハーサルの時は身体的な試練、体の動きから始めました。すなわち喧嘩のシーンです。他の子供たちと喧嘩をする、自転車を押されて転んでしまう、木に登る、それからサマンサに抱きつく。そうした体の動きなど、身体的なことから始めました。彼は13歳ですから実際、羞恥心もあって、母親でもない女性に抱きつくのがなかなか出来なかったのです。そうした身体的な訓練を繰り返すことによってトマはシリルの中に入り込んでいくことが出来たのだと思います。初めてスクリーンに登場する俳優としてトマは素晴らしい俳優だったと思います。それはどのシーンにおいてもいつも良いのです。ふつうプロの俳優の場合、あまり重要な課題ではない繋ぎになっているような小さなシーンがあります。そうすると、そのシーンではなかなかいい演技が出来ない。ですから、その小さいシーンで演技がマズいと大きいシーンは駄目になってしまう。ところがトマの方はどういうシーンでも大小に関わらずいつもいい演技が出来ていました。今後、彼がどういう人生になっていくか分りませんけれども、本当に偉大な俳優の素質を持っていると思います。あるインタビューで、「トマ・ドレ、この撮影で一番楽しかった日は?一番辛かった日は?」と聞かれていましたが、彼は「一番幸福だったのはリハーサルが始まった初日。一番辛かったのは、撮影が終わった最後の日」と答えていました。どのように彼が仕事に取り組んでいたのかをよく要約している言葉だと思います。


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