OUTSIDE IN TOKYO
JEAN-PIERRE & LUC DARDENNE INTERVIEW

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ『少年と自転車』インタヴュー

3. 最初にシリルという少年像を考えた時、すでにその少年はもう自転車に乗っていました

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Q:『ある子供』で注目されたジェレミー・レニエが父親役で出ていて、それも驚いたのですが、彼の繊細な演技はお2人の作品で培われたと言っても過言ではないのかなと思いました。次はちゃんとしたお父さんの役も見てみたい気もします(笑)。さて、トマ・ドレの話ですが、本作でとても注目されて期待がかかっていると思うのですが、今後どういった方向、どういった俳優さんになると、お2人は期待されているのでしょうか。
D:今、リクエストを頂きましたので、いくつかジェレミー・レニエをいいお父さん役として映画を作ってみたいと思います。いつになるか分りませんが検討してみましょう。もしかして、なかなか出来ずに、いいお爺ちゃん役で出演することになるかもしれませんが(笑)。トマ・ドレについては、(まず)彼が俳優になるかどうかも分かりません。この映画に出演する前、トマ・ドレは神経外科医を目指していました。ですから、彼は脳外科医になりたいと言っていたのです。でもこの映画に出演した後、将来何になりたいか聞かれると、神経外科医か俳優と答えるようになりました。もし彼が俳優になるのであれば、いい俳優になって様々な役をしてほしいと思います。しかも、今の彼と同じような謙虚さをずっと持ち続けてほしいと思っています。

Q:この映画の前半、特にシリルの様子を見ながら、自分の頭の中で、“不完全な脳”という言葉が、繰り返し繰り返し浮かんできていたのですが、もちろん彼の置かれた状況というのもあるわけですが、その言葉を聞いて何か思うところはありますか?
D:何も思い浮かぶことはないのですが、ある瞬間、映画は観客のものになりますから、そういう言葉が思い浮かんだとしても、それは悪いとは言えないですね。

Q:おそらく、子供が様々な条件や状況を受け入れる中で、一生懸命に対処しながら自分のキャパの中で苦しんでいるという印象から浮かんだのかもしれないんですが。
D:分かりました。

Q:今回いろいろなメタファーとして自転車を使ったり、開けられない扉があったり、森があったりするのですが、その中でも一番重要な、トマを自転車に乗せることにしたきっかけや考えはあったのですか?
D:よく、私たちは直感的に物事を作っていると言われますが、自転車も直感です。最初にシリルという少年像を考えた時、すでにその少年はもう自転車に乗っていました。ひとりぼっちのシリルにとっては自転車だけが友人です。また同時に、自分の暴力的なところを発揮出来る相手でもあります、八つ当たりをしたり、アクロバットをして前輪を上げたりすることも出来ます。ですから孤独な存在であっても自転車の友人がいる。また同時に、自分の暴力を投げつける相手でもある。そしてシナリオを書き進むにつれて自転車がシリルと他の登場人物たちを繋ぐ媒介になっていきました。すなわち、父を探しに行くのも自転車に乗ってですし、自転車が盗まれてその子供を追いかけてとか、そういった他の人との繋がりがあります。サマンサとの接触が始まったのも彼女が自転車を買い戻してくれたからです。また森の中で泥棒のウエスとアールノも自転車に乗っている状態だからです。このように自転車が他の人々との繋がりをつかさどる役割を担うようになりました。だからこそ最後の方で川縁を二人で自転車に乗って2台並ばせて走るシーンを作ったのです。一台でひとりぼっちだった自転車に対して、母親か姉か友人のようなもう一台の自転車、仲間を与えてあげたのです。


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