OUTSIDE IN TOKYO
DAVID CRONENBERG INTERVIEW

デヴィッド・クローネンバーグ:オン『イースタン・プロミス』

3. ハリウッドでの僕の評価はかつてないほど良くなった(笑)

1  |  2  |  3

現代の犯罪世界で、しかも英語圏で、ロシアの犯罪世界をどうリサーチしたのですか?
多くは本やドキュメンタリーで行った。ヴィゴは刑務所に入っていた年配のロシアの犯罪者にも会った。ロシアではなくロスで。どんなロシア語をしゃべるのかも聞いた。映画の中のロシア語は、犯罪者の話す隠語だ。ヴィゴは彼らの話し方を正しくやりたかった。彼が行ったタトゥーのリサーチも正しいことを確認したかった。彼が会った何人かも、彼がタトゥーについて調べたことを裏付けた。でも別にマフィアとコンタクトをとっていたわけではないんだ。<法の泥棒>はもはやロシアでは絶滅に瀕している。彼らはツァーの時代の、ソ連以前に暗躍した犯罪者たちだ。彼らの子弟関係はとても古く、刑務所での生活を強いられてきた。今のネオ資本主義的な犯罪集団とは大きく異なる。だからこういう犯罪者たちをロシア以外の刑務所で見つけることはまれで、逆に他国で故郷を離れた者たちを見つけるかもしれない。リサーチに使った『Mark of Cain(カインの徴)』という美しいドキュメンタリーがあり、ロシアの刑務所で撮られ、犯罪者たちがタトゥーやその意味について語っている。ドキュメンタリーの最後で、かなり年老いた犯罪者が時代の終焉を悲しんでいる。若者たちはもうタトゥーの意味も理解しないし、カネのことばかりで、敬意を表する気もない。昔気質の兄弟意識もない。もう死にゆく文化であり、そう長く続かない。

映画を見たマフィアの人に感想を聞く機会は?
ロシア語のアドバイザーで、映画の中のロシア語が正しいか、犯罪者の話すロシア語になっているかチェックする人がいて、彼はいろんな意見をネットで受け取った。この映画はロシアでも上映された。犯罪者からのレビューはとてもよかった(笑)。彼らは犯罪者と呼ばれることも気にしない。実際にそうだから。でも彼らを茶化したり、バカにすれば怒るだろう。正しく描かなかった場合も。タトゥーが間違っていたり、台詞が間違っていたりしても怒るだろう。でも彼らは正確だと判断してくれた。そして気をよくしてくれ、ロシア人の犯罪者たちからとてもいい評価をもらえた。

『ヒストリー〜』と今作で、現実と近くなった途端、世間が巨匠のように扱うようになった気がします。アカデミー賞のことも含め、急に世間が受け入れ始めたことをどう思います?
(笑)もちろん、成功したと受け止める人もいれば、おもしろいと言ってくれる人もいる。同時に、おもしろくないと言われる時もあれば、気付かないこともある。僕は芸術的でクリエイティブな衝動に忠実に続けるしかないわけで、それ以外はコントロールできない。この映画はわりと成功し、いい評ももらったし、ハリウッドでの僕の評価は今までにないくらいいい(笑)。今は映画スタジオが脚本を送ってくるし、数作前にそんなことはまるでなかった。でも僕は同じ人間だ。年齢と共に監督としてよくなっているとは思うけど、映画スタジオの若い重役たちは、急な成功でもない限り、僕のことも知らない。だから常にアップダウンはある。もちろんこの成功を喜んでいる。でももっと多くの映画を撮って、キャリアがこの先も続けば、評価も変わることは自覚している。でもそんなことは気にしていられない。

SF映画も楽しみです。
僕もさ!『イグジステンズ』以来、10年はSFをやってない。またそのジャンルに戻るのは楽しいし、またおもしろいことができたらと思う。

他には?
実は『ザ・フライ』のオペラを演出している。音楽ディレクターはハワード・ショアで、僕のほとんどの映画音楽を手がけている。リブレットはヘンリー・デヴィッド・ワンで、彼は『エム・バタフライ』の戯曲と映画の脚本も書いている。私の監督した『ザ・フライ』が基だ。でもブロードウェイ・ミュージカルじゃなく、ちゃんとしたオペラだ。オペラの世界はよく分からないけど、世界の人が興味を持てば、自国でプロダクションを作ることになりそうだ。何本も回るほど成功するか分からないけど、そうなるといいな。

最近の作品は構造的にしっかりしている気もしますが?
映画にもよると思う。『スキャナー』はアクション映画の構造がある。各々の作品に独自の宇宙、世界がある。『スパイダー〜』はよく構成されているが、内向的なアート映画だ。語りというより、記憶やアイデンティティについての映画で、理解しやすい物語的な構造だと逆に機能しなかった。だから各々の映画が求めるものが違うんだ。『ヒストリー〜』は、他の映画よりもメインストリーム寄りと言っていい。そしてキャラクターが強く、物語の要素も強い。その二つは分離できない。だから僕がクリエイティブに進化しているかどうかより、映画が必要とするものを与えるだけだ。

可能なら少ないスタッフでやりたいですか?
スタッフが多いとは言っても、トラックの運転手やコックも入れて何百人になるだけだ。でもYouTubeで見られる小さな規模の短編映画も撮ってるよ。長さ4分、カンヌ映画祭のために作ったんだけど、一人で自宅のバスルームで撮ったんだ。自分で演じているほど(笑)、かなりの低予算だ。スタッフは僕と息子と妻だけ。でもそれ以上は必要ない。(映画を撮っている時)僕はスタッフのことを意識していない。各々が自分の仕事をこなし、実際、一緒に作業するのは数人だ。多くのスタッフがいても逆に目に入らない。『アイアンマン』規模の500人のスタッフを使ったことはないけど。撮影期間も9ヶ月に及ぶ。もう巨大なマシーンだ。僕がふだん一緒に仕事しているのは10人程度のコア・スタッフで、早いペースで仕事できる。今まで僕は一度も予算を越えたことがない。まあ、すべては相対的だ。学生映画みたいに、カンヌ映画祭用の作品はふつうのパナソニックのHVX200で撮影した。ハイデフィニションの一般向けカメラで。そのやり方は苦にならない。自分でカメラ、照明もこなして。だからテーマによるね。予算ありきではなく、脚本が一番だ。すべてはそこから始まる。

予算の大小は大事なこと?
いや、全く関係ないくらい、大事なのは脚本だ。とてもよい構造の犯罪映画を低予算で作ることもできるし、そういう映画はたくさんある。大事なのはアーティスティスティックな決断だ。巨大予算のファンタジー映画とか、『ロード・オブ・ザ・リング』もある。そんなにしっかりした物語構造はないのに、すごく予算がかかっている。

ヴィゴともそれについて話すことがたくさんあったんだろうね。
それはもちろん(笑)。

1  |  2  |  3