OUTSIDE IN TOKYO
Edmund Yeo INTERVIEW

エドモンド・ヨウ『破裂するドリアンの河の記憶』インタヴュー

2. 映画は世界を憶えていくことができる

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Q:かつて教師をやっていましたが、現在は環境ジャーナリストをやっているものです。素晴らしい映画をありがとうございます。映画では、“ドリアン”を食べるのを皆嫌がっているんですね、何かの比喩として使われているのかなということ、そして、水の音が常に背景の中に入っているんですね。日本でも足尾銅山の鉱毒、熊本の水俣病とか、水に絡んだ色々な公害が過去にありましたが、ドイツの有名な大統領(リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー)が「過去に対して盲目な人間は未来に対しても盲目である」という有名な言葉を残しています。監督はこの言葉をご存知でしょうか?それと、ミンさんとメイ・アンさん役のお二人は、現在もあの役の通りに仲がよろしいですか?
エドモンド・ヨウ:ご質問ありがとうございます。まずドリアンについてですが、ドリアンは、マレーシアでは大変重要な役割を担っています。“果物の王様”であるということもありますが、凄く好きな人もいれば嫌いな人もいる果物なのです。外側は匂いがキツくて嫌がる人もいるのですが、内側は柔らかくて凄く美味しいんですね。外側はちょっと変わっているように見えるけれども、内側は心も温かくていい人たちばかりで、すぐに仲良くなれるというマレーシアを良く表現しているんじゃないかなということで、今回のこのマレーシアについての映画、そして、マレーシア人についての映画を作るという意味で一番象徴的なのではないかなと思って、ドリアンを選んでいます。

歴史に関しては私も強い関心を持っています。作品の中で描かれている色々な歴史的な事象は、これまで語られる事のなかった事象、つまり、教科書にのっていなかったり、政治的な理由から語られることが許さなかったような事象というのが多く盛り込まれています。“映画”は、大変強力なパワーを持っています、中には映画はただの娯楽だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私自身は、映画は世界のことを憶えて行くことの出来る手段であるという風に感じておりますし、映画は永遠だと思っていますので、このような語られることのない歴史的事象を憶えておいて頂きたいという意図で作品に盛り込んでいます。
ジョーイ・レオン:この作品の中では、この二人が愛し合っているということはもの凄く伝わるのだと思いますけれども、ちょっと普通のカップルというわけではなくて、なかなか複雑な入り組んだ事情があって、この作品の中ではあまり上手くいっていないわけですが、それは、現実の世界でも同じかなと(笑い)。(シャーン・コーに向かって)ごめんなさい!
シャーン・コー:少なくともジョーイは、映画の中のメイ・アンみたいに突然いなくなっちゃたりはしないですよね(笑)
ジョーイ・レオン:私は、みなさま方のために、ここにおります(笑)。
Q:とても作品を楽しませて頂きました。2つほど質問があります。最近、マレーシア政府は映画製作を推進していて、色々な形で資金が調達されていると思いますが、インディペンデント系映画もそうした恩恵をこうむることが出来ているのかどうかということを、プロデューサ、監督、俳優さんの視点から伺いたいと思います。そして、この作品の中でマレーシアの政治的な問題に触れられていますが、これは大変センシティブな問題かと思います。シンガポールでも最近、ある作品が政治的な問題に触れているということで上映禁止になったケースもありますが、そうしたことがマレーシアでも問題になることがあるのでしょうか?そして、この映画では、他の国の政治的な問題に触れつつ、マレーシアの政治的問題を描こうとしているところがあったと思いますが、そのことについて少し詳しく話すことが出来るのであればお伺いしたいと思います。
ウー・ミン・ジン(プロデューサ):マレーシア政府は確かに映画製作を推進していて、確かにそうした波及効果も得られています。ゆっくりとではありますが、ノンジャンルの映画でもそうした恩恵をこうむることが出来るようになってきていて、以前はメインストリームものしか出来なかったけれども、今はどんな形のものでも作れるようになってきました。その結果、マレーシア映画は海外でも認識されるようになってきているので、今、映画状況はかなり改善してきていると思います。財務的な恩恵は確かに大きいですね。エドモンドも私も、商用の作品やコンテンツなども作っていますが、本当に世界の距離はどんどん縮まっていて、ソーシャルメディアなどもありますので、“映画”というものは一種類だけではないんだなという認識も高まっていると思います。
エドモンド・ヨウ:2つ目の質問に関してですが、私は作品の中でみなさんに問い掛けをしたいと考えています。単純に色々な不満を述べたりすることはマレーシア国内でもFacebookなどのSNSで色々な人が行っています。これはとてもマレーシア的なことだと思っていますが、とても馬鹿馬鹿しい事だと思います。ただ公に政府の非難をしたり、自分の地位について不満を述べたりするといったことにはもう疲れてしまったので、私の場合は、そうしたことについての問い掛けを作品の中に盛り込んでいます。もうひとつ、歴史的な事象についてですが、タイやフィリピンの事象が作品の中に盛り込まれています、これらの国々は私たちの隣国で、私たちの国と歴史的な関連性があると思っています。ですから私は、私たちが今行っていることを継続的にやっていると、同じような歴史が繰り返されるのではないだろうか、それより、もっと違うことを試してみて、もっと良い結果に繋がるということを願ったらどうか、といった問いを投げかけているのです。

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