パリのカルチェ・ラタンを舞台に、南の街から引っ越して来たばかりの若い女性マヴィと、古書店を経営する初老の男性ジョルジュの出会いを描く『静かなふたり』は、“奇妙な鳥たち”という原題が秘かに伝えているように、数多作られている凡百のラブストーリーとは一線を画す、映画史への然るべき目配せやカモメが突然降って来るサイエンス・フィクション効果、変わりつつある社会・政治的活動に関する言及といった映画作家のユニークな個性が繊細に織り込まれた奇妙で、愛すべきラブストーリーである。イザベル・ユペールの娘ロリータ・シャマが、“19世紀の文学少女”的な佇まいで主人公マヴィを演じており、“寄せては返す波”のように成長していくひとりの女性の肖像画として、記憶に留まる映画になりそうだ。
『静かなふたり』は、エリーズ・ジラール監督の長編フィクションとしては二作目の作品にあたる。ドキュメント映画からキャリアをスタートした監督の作品は、作品を重ねる毎に虚構性を強めてきているように見えるが、その完全な虚構の世界の中には、エリーズ・ジラール監督の個性が濃厚に息づいており、まさに“作家の映画”と呼ぶのが相応しい、“現代版のヌーヴェルヴァーグ”というよりは、“ヌーヴェルヴァーグそのもの”というべき映画である。ヌーヴェルヴァーグの映画作家たちの撮影を多く手掛けて来た名匠レナート・ベルタが撮影監督を務めていることが決定的だが、21世紀の今も、ヌーヴェルヴァーグが生き続けていることを、この映画は証明している。
1. レナート・ベルタには、パリの建物のファサードを、 |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):『静かなふたり』を拝見して、“ヌーヴェルヴァーグのような”映画ではなく、“ヌーヴェルヴァーグそのもの”である映画だと思いました。 エリーズ・ジラール:ありがとうございます。フランスでも同じことを言われています。 OIT:やはり、そうなんですね。エリーズさんは、ドキュメンタリー映画で映画監督のキャリアをスタートされて、長編フィクション第一作が前作『ベルヴィル・トーキョー』(11)でした。そこではヴァレリー・ドンゼッリとジェエミー・エルカイム、実際にパートナー関係にあった、ふたりの俳優をドキュメントしているようなところがあったと思います。今回の『静かなふたり』(17)は完全なフィクションです。作品を重ねる毎にフィクションの方に寄って来たという印象がありますが、作品ごとに、今回はどういう映画言語で語ろうかということを考えてやっているということですか?
エリーズ・ジラール:もちろんそれぞれの作品で何かを模索しているということはあります。ただ、今まで幾つかの作品を撮ってきて、今回『静かなふたり』を撮りましたけれども、考えてみたら、私らしいなって思えるものがいつも大体同じなんです、こういうのが自分は好きなんだなっていう事に、今回の作品でやっと気付いたような気がします。とにかく私が好きなのは、フレームの中にたくさん人が居ないこと、無駄な物が取り除かれた構図が好きなんだなと気付いたんです。 OIT:それで今回の作品は、通行人が少ない印象なのでしょうか。敢えて配置している場合もありましたけれども、通行人を止めたりしていたのですか?
エリーズ・ジラール:そうしたわけではなくて、無意識だったんです。そのことに気付いたのは編集の時でした。パリは人が多い街ですから、とても不思議なことですよね。 OIT:よく指摘されることだとは思いますが、パリの街がセットのように撮られていましたね。
エリーズ・ジラール:やっぱり今回のストーリーがこういう構図を呼んだと言えるかもしれません。今回の場合、孤独なふたりが、それぞれ一人で生きていて、男性は本屋の中に一人でいる、そういう生き方をしている人たちですから。どちらかというとその構図というのは、そういうふたりの人物像がそのような構図を呼び込んだのでしょう。撮影のレナート・ベルタには、出来るだけパリのいわゆるモニュメントと呼ばれるもの、石で出来たそれらの建物のファサードを、あたかも美術セットであるかのような感じを出して撮影してほしいと頼んだのです。
|
『静かなふたり』 英題:STRANGE BIRDS 10月14日(土)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー 監督・脚本:エリーズ・ジラール 共同脚本:アンヌ=ルイーズ・トリヴィディク 撮影:レナート・ベルタ 音楽:ベルトラン・ブルガラ 出演:ロリータ・シャマ、ジャン・ソレル、ヴィルジニー・ルドワイヤン、パスカル・セルボ ©KinoEletron - Reborn Production - Mikino - 2016 2017年/フランス/カラー/70分 配給:コピアポア・フィルム 『静かなふたり』 オフィシャルサイト http://mermaidfilms.co.jp/ shizukanafutari/ 『ベルヴィル・トーキョー』インタヴュー |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 次ページ→ |