OUTSIDE IN TOKYO
Gaspar Noe Interview

ギャスパー・ノエ『エンター・ザ・ボイド』インタヴュー

3. 『アバター』には驚いた。『ハート・ロッカー』にも驚かされた。
  そしてラース・フォン・トリアーの『The Antichrist』もすごく好きだ

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OIT:でも、映画の内容でボイドはどういう意味なの?
GN:ボイドは、例えば、宇宙の外側には、無があるといわれているわけで、無というのは、空っぽのカップともまた違う。世界があって、その外にあるのが無。何の意味も持たない、全くの無。この場合、『エンター・ザ・ボイド』という場合、彼が死んでいることが分かる。観客が主人公の視点でついていく時、彼がなぜ死ぬのかを見ることになる。でも彼が無に入っていくにも関わらず、彼は実際どこにも行かない。まるでどこかに消えてしまうような感じで、すなわち、無になる。でも実際、物語の語り方から見て、タイトルが最後に来て、最後のシーンで母親の顔を確認してもらえれば、実は彼の妹でないことが分かってもらえる。それは彼の母親であり、彼はある循環の中に戻って、再生しようとしているのが分かる。それか、彼自身が生まれた瞬間を思い出しているだけなのか。そして最後の瞬間が無であり、彼は生まれる。彼が生まれ変わったと思う人もいるけど、まあ、彼が生まれ、タイトルの無が来て、人生こそが無である、ということになる(笑)。

OIT:人生こそが無なの?
GN:そう人生こそが無。それは同時に、彼の人生が無意味だったということ。それはほとんどの人生が無意味であるということ。この世に生を受けて、僕らは体験を楽しみ、実はどこにも行かない。実際、どこにも行けない。ただ楽しみ、そして終わる。それに彼は子供を作ることもなく、若いまま、無意味な人生を終えるわけだ。

OIT:待って、彼は死に、無に入っていき、それから、戻ってくる時、また無に戻っていくということでいいのかな?
GN:そうだね。まあ、実際は、彼の人生そのものが無であるということ。

OIT:意味がないと…。
GN:そう、無意味だ。映画の中でボイスオーバーがあって、結局は遺さなかったんだけど、彼のボイスオーバーで、この世界は僕を必要としていない、もし僕が消えても、誰も気づかない、というところがあった。

OIT:それはあなたが日々、感じていること?
GN:そうだね。映画作家というのは、道の端っこに小さな石ころをおくだけのような存在だ。まあ、これは2Dの映画だけど、100年後に昔の映画を見る人もいるかもしれない。でもそれは不確かなこと。まあ、そんなものさ。

OIT:それなら、なぜそれでも映画を撮っているの?
GN:それは、自分が見つけた一番楽しいことだから。映画を作る時、たくさんの人に会える。旅をし、楽しいし、パーティーにも行ける。

OIT:(笑)
GN:でもお金のためではないよ。お金があれば、お酒の金になったり、自分が友達になりたい人におごったりすることができる。そして映画を監督して得たお金は、映画ポスターやDVDを買うことで消えていく。おかしな話だけど、洋服を買うと、お金を失っている気分になる。でもバーに行って友達と酒を飲んでいると、逆に投資しているような気がするんだよね。



OIT:今でも映画を見ることを楽しんでいる?
GN:実は、僕はあまり驚かない方だ。でも例えばだけど、『アバター』には驚いた。それに『ハート・ロッカー』にも驚かされた。そしてラース・フォン・トリアーの最新作『The Antichrist』もすごく好きだ。でもフィクション映画よりもドキュメンタリーを見ることの方が多いね。しばらく物語性のある映画を撮っていると、トリックやギミック、それに照明に飽きてくるようになって、以前ほどうまく機能しなくなっているのが分かる。例えば14歳の頃のように。全てが初めて作られていた時代のように。でもドキュメンタリーはいつも違う。もう学校には行っていないけど、毎朝、新聞を読んでいる。ドキュメンタリーはとても正確だ。それに記憶は目を通して決められることが多い。新聞よりもイメージの方が印象に残る。だからドキュメンタリーを見るのは好きだ。フランスにはドキュメンタリーを放送するテレビ局がふたつあって、テレビはそれくらいしか見ないんだ。

OIT:あなたは何がいい映画を作ると思いますか?
GN:それは時に、テーマだよね。イメージであり、いくつかのアイデアであり、映画的な方法で今まで観たことのないもの。例えば、パルムドールを獲得した映画ですごくよかったのが『4ヶ月、3週間と2日』(07/クリスティアン・ムンジウ)。なぜそこまで気に入ったかと言うと、僕にとって、あれは究極のホラーだったから。本当に究極の。あの映画は本当に怖いと思う。ホラー映画を見て怖いと思ったことはほとんどないのに、あれは本当にやばいと思った。自分の父に観た方がいいと言ったんだけど、彼は途中で出てしまったくらい。あと、サンダンスで奇妙な映画を観た。『RESTREPO』(10/Tim Hetherington,Sebastian Junger)というドキュメンタリーで、アメリカの18、19歳の若者たちが最前線、もしくはアフガニスタンの最危険地帯に送られる様に、カメラがついていくというもの。監督は彼らの後ろにいる。アメリカ兵を撮る映画は数多くあるけど、この若者たちは撃たれ、(目の前で)爆弾が爆破し、兵士たちが死んでいく様が映されている。若者たちは泣き始めたり、その視点から、本当に観客も前線にいるように感じてすごく怖い。それに2次効果もあって、映画が終わると、まあ、他のフィクション映画と比べたら感情的にそこまでうまく作用してはいないんだけど、フィクションでないということがいやでも分かるわけで、頭が混乱してしまうんだ。僕は戦争の最前線なんて見たこともないし、そんなに近くからなんてなおさらない。でもそれは編集のおかげでもないし、ただそれがテーマであって、90分間もそのようなイメージを見せられたことなんて今までないと思うんだ。

OIT:それは自分の映画でも作りたいリアリティということ?その視点で、観客が同じ体験をできる感覚とか。
GN:そうだね。映画作りはジェットコースターを作るようなものさ。みんなに体験を楽しんでほしいし、例えば、人が東京に来ると、どこに行くべきか聞かれるけど、僕はまず、後楽園に行ってジェットコースターに乗ることを勧める。僕が人生で乗った一番怖いコースターだよ。そして、まあ、ものを作って、人に楽しんでほしいわけだよね。どうやったら楽しんでもらえるだろうかって。僕は『ストレンジ・デイズ』(95/キャスリン・ビグロー)のような、いい視点で撮られた映画が好きだ。でも残念ながらその映画は2Dで、3Dだったらもっとすごいと思うけど。もし映画が3Dなら、まあ、でも時間は戻せないからしょうがないんだけどね。でも観客か、将来的な観客を驚かせることのできるどんなトリックを使えるか、どうやったら自分と同じように見てもらえるかは考えるよ。自分と同じテイストで感じてもらうにはって。それをこのスクリーン上でどうやればいいかって。まだ自分でも見たことがなく、さらに先へ押し進められるようにね。それでいろんなところからアイデアをとって、ぜんぶ一緒にした。それに僕は俯瞰撮影のある映画が好きだ。上から撮っているやつね。『ウエストサイド物語』(61/ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス)だってニューヨークの俯瞰ショットがあって、それはすごく好きだね。それで東京も上から撮りたいと思った。そうしたらさ、あの最後のショットを撮るために、スタッフがヘリコプターに乗らないかと言ってきたんだ。でも僕は機械は信用できなくて、NO、上空には行きたくない、ヘリコプターでなんか死にたくないって言ったんだ。それでも彼らが撮って戻ってきた映像を見るのは大好きで、何事もなかったように、自分も東京上空を飛んでいるかのように楽しんでいたけどね(笑)。

OIT:でも最初に構想が生まれた時は7年前ということだけど、その間に何があったかもっと聞かせてもらえるかな?
GN:いや、もう15年も映画化しようとしてきていたから。

OIT:その間にテクノロジーも変わり…。
GN:そう、だから映画が何度も遅れ、延期されたことが逆に幸運だったのかもしれなくて、実現した時は完璧なタイミングだった。今のテクノロジーでは、まあ、その当時でもたくさんのことができたけど、今は間違っていたと分かることも多いよね。今ではスクリーンで見せたいものに、僕がまだ技術的に用意できていなかったか、まだ機械が追いついていなかったことも分かる。でも、もし今また同じ映画の撮影準備を始めるのであれば、唯一変えたいのは、全てを3Dでやりたいってこと。男が撃たれる瞬間からそれ以降、そして最後のシーンも3Dでやりたいね。

OIT:それはすごいね。
GN:そう、あの誕生のシーンも。でもそれだと最初の30分にまず観客は眼鏡をかけなければいけなくて、バカげているかもしれないね。あの大きな眼鏡がうっとうしく感じるかも。小さなテレビで3D映像を見れるようになれば、眼鏡をかける必要なくなっていいね。


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