OUTSIDE IN TOKYO
Gilles Paquet-Brenner INTERVIEW

ジル・パケ=ブレネール『サラの鍵』インタヴュー

3. 全てが早いスピードで繋がっていき、過去も未来も存在しない現在、
 過去の経験を知るのはとても大事なことだ

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OIT:それならば、歴史的な要素とミステリーの要素をうまく共存させることができた成功例は?
GPB:それは何かあるはずだよね……。何か思い当たる?

OIT:今、流れの中で思いついたことだから、僕も一緒に考えてみます。
GPB:絶対あるはずなんだけど、うまく思い出せないな。でもそれはそんなに難しいことではないはずだ。例えば、『フォレスト・ガンプ』がある。あれはうまく機能した例だよ。アメリカ現代史を提示しながら、ふつうの男が最高のタイミングでその場に居合わせる。期待していた例じゃないかもしれないけど、まあ、機能はしているよね(笑)。

OIT:うん、それは予想していなかったです(笑)。
GPB:でもケネディー、リンドン・ジョンソン、ニクソンもみんなに登場するじゃない(笑)。

OIT:この現代の部分と歴史の部分は主人公によって明らかにされていくという展開だけど、それはどう編んでいく予定だったのですか。物語を読んだ時点からもう決められたのか、うまく整理しなければならなかったのでしょうか。
GPB:それはいろいろと試行錯誤を繰り返さなければいけない。サラは小説の半ばで姿を消してしまう。だからもっと歴史的な要素が必要だと思ったし、映画はいいバランスを保たなければならないと思った。でも結果的にいいバランスに落ち着いたと思う。現代が60%で歴史が40%。でもそれは脚本を書き始めて、6:4にしなければいけないと考えていたわけじゃない。何がうまく映画を機能させるかということだけだ。

OIT:では、うまく機能していると確信できるのはどんな時ですか?
GPB:まず、シナリオの段階でたくさんの作業をした。脚本の時点でうまく機能していなければ、映画になってうまくいくはずがないから。実際の撮影の段階で順番を入れ替えたりすることは全くなかった。脚本通りに映画は構成されている。たいてい脚本を読んでよければ、映画を流した時にもうまくいく。初稿が上がった時点で、自分がいいと思えば、今度は人に読ませて、人の反応に委ねてみる。初稿の段階で、サラの感情はとても強く出ているから、よし、これでいこうとなる。それから色々と調整していくわけだ。でも脚本の段階でうまく機能しているか分かる。だいたいうまくいっている時はすぐに分かるものだけど、その逆の順番でやるとうまくいった試しがない。脚本でうまくいってないものを機能させるのはとても困難だ。

OIT:来る途中で考えていたんだけど、テーマが悲劇だよね。
GPB:うん、ギリシャ悲劇やシェイクスピア悲劇みたいだよね。

OIT:そうだよね。昨日は中国の収容所の話について取材をし、そのあと、子供を亡くした夫婦についての記事を書いていたんです。そして現在も悲劇に満ちています。そんな中で僕らはどうしてそこまで更に悲しい物語を見なければならないのでしょう。かと言って、別にコメディーが見たいわけではないんですけどね。
GPB:いや、それはいい質問だよ。僕自身もそれは自分に問わなければならなかった。映画のためにも。つまり、過去が我々を定義づけるということ。今は特に若い世代のことを考えなければいけない。もちろん、年配の人たちも知りたいだろうし、もう知っているかもしれないけど、若い世代にもそれを知らせなければいけない。年配の人たちは、平和が何を意味するかもう分かっていると思う。それは戦争を知っているから。でも君の世代も、僕の世代も、平和な状態しか経験していない。だから、何を失うかが分からなければ、それに対してそれほど慎重にもなれない。若い世代の多くが、どれだけ“我々”が幸運か気付いていない。もちろん薄々は感じているかもしれないけれど、“我々”の時代のすぐ前にとてつもなく困難な状況があった。それはヨーロッパだけでなく、日本でもそうだ。だからそれは我々も真剣に考えなければいけないと思う。それがどれだけ急激に変わってしまうかを歴史が見せてくれている。そしてもうひとつの点は、僕らが大きな変化の時代を迎えていること。テクノロジーのおかげでね。それは現在、全てが早いスピードで繋がっていく。あるテーマから次のテーマへどんどん移っていく。過去も未来も存在しない。過去や未来というコンセプト自体とても気をつけなければいけない。過去が僕らを定義付ける。そしてそこから学びとらなければいけない。過去はあなたの経験でもあるのだから。だからそれを知るのはとても大事なことだ。そこでもうそんなことは聞き飽きたよ、という人もいるかもしれない。でもそんなことは言わないで、と言いたい。時に、注意を喚起してくれるものが必要なんだ。それはホロコーストとか、中国の収容所とかだけではなく、全体に言えることだ。過去や歴史が大切だということを若い人たちに伝えていくことも必要なことなんだ。


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