OUTSIDE IN TOKYO
Gilles Paquet-Brenner INTERVIEW

玄関のドアが激しく叩かれる。少女サラは急いで納戸に幼い弟を隠し、絶対に出てきてはいけないと言い聞かせたまま鍵をかける。彼女は家族と共に、そのまま他のユダヤ人たちと連行され、すぐに戻れると信じながら、冬季競輪場のヴェルディヴに収容されてしまう。1942年、パリでは大量のユダヤ人が収容され、トイレも水道も医療の設備もない状態で多くの者が息絶え、残った者たちもドイツへ向かう貨物列車に乗せられた。ホロコーストの一環には違いないものの、その事件はドイツではなく、圧力に負けたフランス自体が自国のユダヤ人に手を下したとして隠蔽され、1995年にシラク大統領が発表するまで長く語られてこなかった。

そして現代。事件はそんな少女サラの行方を女性ジャーナリストが追うという小説『サラの鍵』として注目を集める。収容所に送られた少女はその後どうなったのか。弟の元へ辿り着くことができたのか。フランスが加担したユダヤ人の大量収容・虐殺という悲惨な体験を、少女の目線から浮き彫りにする小説は人気を博し、それを同名の『サラの鍵』として映画化したのがジル・パケ=ブレネール。真相を探るジャーナリストの役に『イングリッシュ・ページェント』などでも知られるクリスティン・スコット・トーマスを据え、メリュジーヌ・マヤンス扮する過去の少女時代と現代を往ったり来たりしながら、観客自身が真相を辿る手法を採っている。この事件は、最近ジャン・レノがヴェルディヴでユダヤ人を助けようとする医師に扮した『黄色い星の子供たち』などでも扱われ、注目を集めている。そして自身もドイツ系ユダヤ人の祖父を収容所で亡くしている監督パケ=ブレネール監督だが、同時に、処女長編『美しい妹』で今や大女優となったマリオン・コティヤール、2作目『Gomez & Tavarès』でエロディー・ナヴァール、『UV』では『黒い瞳』などのマルト・ケラー、前作『Walled In』でミーシャ・バートンを起用するなど、新進気鋭ながら、個性的な女優たちとのコラボレーションで評判を得ている。そして今作では英語も仏語も操るクリスティン・スコット・トーマスに映画の牽引役を委ねている。2010年の完成から世界中で評判を呼んだ今作からようやく次の作品へ始動し始めた監督にこの映画にこめた想いを聞いてみた。

1. 僕が監督する映画には、常にとても強い主演女優がいる。
 なぜそこに自分が引きつけられるのか分からないけど、なぜかそうなってしまうんだ(笑)

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT): (映画が2010年に完成して)今現在はどんな仕事をしているのですか?
Gille Paquet-Brenner(以降GPB): 今は次の映画の準備をしているよ。『ダーク・プレイセス(Dark Places)というタイトルの、ギリアン・フリン(Gillian Flynn)の小説だ。スリラーというか殺人ミステリーだね。舞台はカンザス州のカンザスシティ。撮影は来年の7月半ばには入りたいと思っている。だから今は『サラの鍵』のプロモーションを終えようとしているところだ。1年ほど前に他の国では公開し、そろそろ次の映画に取りかかろうとしている。ちなみに(DVDを手に)これが初めての映画だ。この『美しい妹』(マリオン・コティヤール主演)が1本目で、今日この日本版のDVDを手に入れたんだ。

OIT:偶然見つけたんですか?
GPB:いや、日本で調べてもらったんだ。出てるはずだと思ったから。

OIT:新作はアメリカのプロダクションということですか?
GPB:まあ、正確にはアメリカと仏系カナダの共同資本だ。でも観客の立場から見ればアメリカ映画と言えるだろうね。

OIT:それはやはりこの映画が大きな後押しとなって実現したのですか?
GPB:そうだね、もちろん。この映画は世界中で興行的にもとても成功した。アメリカだけでは夏に公開され、とても評判がよかったからプロデューサーの反応も上々だった。それでもアメリカへ渡ってハリウッド映画を作る、みたいな感じではないんだよ。人々が映画/作品を気に入ってくれ、より多くの観客に届けるための機会を与えてくれた。英語による映画を僕に作る意味があるとすればそこだ。だからその次に新しいスーパーヒーローの映画を作るとかそういうわけではないし、それがやりたいわけではない。ただ、おかげで素晴らしい俳優へのアクセスが可能になる。残念ながら、次の女優が誰か教えることはまだできない。まだ交渉中だからね。とても有名なハリウッド女優であるとだけは言えるけど、それも『サラの鍵』の成功がなければとてもアプローチできる存在ではなかった。つまり、素晴らしい才能に繋がる機会が与えられたんだ。

OIT:でも最初のスタートの時点から素晴らしい女優たちと仕事してきていますね。
GPB:そうだね、僕の名誉の勲章みたいなものかな(笑)。処女長編の時、マリオン(・コティヤール)はまだ有名ではなかった。その映画はフランスで2001年に公開され、彼女はすでにフランスでは新進気鋭の女優ではあったけど、今は世界的なスターだよね。マリオンもそうだけど、クリスティン・スコット・トーマスも世界有数の女優だよね。そして10年後に会う時には(この映画の少女役)メリュジーヌ・マヤンスも偉大な女優になったねって話すことになるかもしれない(笑)。いい女優、いや、偉大な女優と仕事することで仕事はずっと楽になる(笑)。つまり…。

OIT:代わりに映画を引っ張ってくれるからですか?
GPB:いや、代わりに引っ張って行ってくれるというより、監督である僕が全てを牽引しなくて済むと言った方がいいかな。彼女たちが引っ張っていくと言えば語弊があるね。そこにはプロセスがあり、いろんな交換があるわけだから。でも自分の肩にかかる重荷を取ってくれるのは確かだね。

OIT:もっと言えば、あなたが選ぶ映画は、女性が牽引する映画と言っていいでしょうか。
GPB:うん、たぶん(笑)。その質問はたまに聞かれるけど、『サラの鍵』もそうだし、とても強い主演女優がいる。なぜそこに自分が引きつけられるのか分からないけど、なぜかそうなってしまうんだ(笑)。

『サラの鍵』
英題:ELLE S'APPELAIT SARAH

銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館他にて公開中

監督:ジル・パケ=ブレネール
原作:タチアナ・ド・ロネ『サラの鍵』(新潮クレスト・ブックス)
出演:クリスティン・スコット・トーマス、メリュジーヌ・マヤンス、ニエル・アストリュプ、フレデリック・ピエロ、エイダン・クイン

2010年/フランス/カラー/111分
配給:ギャガ

© 2010 - Hugo Productions - Studio 37 - TF1 Droits Audiovisuel - France2 Cinema

『サラの鍵』
オフィシャルサイト
http://www.sara.gaga.ne.jp/
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