OUTSIDE IN TOKYO
Guillaume Senez Interview

主人公のオリヴェエ(ロマン・デュリス)は、オンライン販売会社の巨大倉庫でリーダーとして働き、職場の仲間からの信頼も厚い、労働組合でも責任ある立場を担い、忙しい日々を過ごしている。家庭を任された妻のローラ(ルーシー・ドゥベイ)はショップ店員として働き、家計を支えながら、二人の幼い子供たちの面倒を見ている。子供たちと接するローラの様子には愛らしささえ窺え、小さな子供が育まれる家庭は、ロマン・デュリスが父親を演じていることもあって、順風満帆に見えるのだが、何かがおかしい。職場の年配の同僚が、クビを告げられ、自ら命を絶ってしまうのだ。映画は、21世紀の私たち、労働者が置かれている状況を何一つ誇張することなく描いている。見るほどに身につまされる、まさに私たちの周囲で起きている現実、そのものを描いている映画である。

グローバル時代の過酷な競争に晒された職場では、年老いて生産効率が落ちてきた労働者は解雇され、労働組合はそうした会社の横暴に対して成す術を持たない。今や、法律で守られているのは労働者の側ではなく企業の側だからだ。そうした職場環境の変化は、家庭にも劇的な影響を与えているが、日々を暮らすのに精一杯な人々には、そうした境遇の変化を自覚することすら容易ではない。子供たちと睦まじく接しているように見えていた妻のローラも、実は張りつめた気持ちで日々を生きていたが、家庭を顧みない夫のオリヴェエは、そんな妻の状態に気付かずにいた。ローラは、ついにすべてが堪え難くなり、子供たちと夫を捨てて家を出てしまう。残されたオリヴィエは慣れない子供達の面倒を見ながら、職場と家庭で孤軍奮闘し頑張るのだが、次から次へと困難が降り掛かってくる。『パパは奮闘中!』という邦題からは、ある種の楽天性すら漂うのだが、事態はより深刻である。

ベルギーのブリュッセル出身で、フランスとベルギー、2つの国籍を持つギヨーム・セネズ監督は、21世紀の現代において、ダブルインカムで余裕があるように見えても、実際は、仕事と子育ての時間配分や経済状況、精神状態においても、ギリギリの生活を送っている共働きの労働者達の生活情景をリアルに描き出し、現代における重要なテーマを、監督本人曰く”フィリグリー細工”のような綿密さとオーガニックな感覚で描くことに成功している。この映画で描かれていることは、その後、フランスで黄色いベスト運動が起きたことを鑑みれば、予兆的ですらあるといえる。事態はそれほど変わらないはずの、この国、日本で、この映画がどのように受け止められることになるのか、注目したい。

1. 私の映画は、仕事の世界と家庭生活、
 双方をフィリグリー細工のように織りなしたもので物語が出来ています

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):映画を拝見して、ゴダールの『万事快調』(1972)を少し想い出しました。ゴダールが当時描いた状況と今とでは、労働者が置かれている状況が全く変わってしまっているという、逆説的な意味においてです。かつては労働闘争が存在したけれども、この映画の中には闘争がなく、現実でもなかなか成立しません。そして、映画の系譜ということで言いますと、ダルデンヌ兄弟やロベール・ゲディギャン、ケン・ローチといった監督たちの名を思い浮かべました。
ギヨーム・セネズ:確かにをそういった映画作家達は私が敬愛する映画作家です。特にゴダールは未来を予見するような映画作家だったと思います。ただ、ゴダール、ケン・ローチ、ダルデンヌといった映画作家達は、常に世界に、社会に目を向けてきたと思いますけれども、私は彼らのようには主義主張を全面に出すタイプの映画作家ではありません。私の映画作りにおいて一番重要なのは感情です。今名前を挙げて頂いた映画作家達は、社会性の強い映画を作り、その中でヒエラルキーの闘争を全面に出し、自分の主張したい問題を全面に出すような作り方をしていますが、私の場合とは構造的に異なると思います。私はよくフィリグリー細工、金銀線細工という言い方をしているのですが、仕事の世界と家庭生活が微妙に合わさり、織りなしたもので物語が出来て、私の映画になっていると思うのです。特に『パパは奮闘中!』では、現代社会における仕事、職業生活がどんな風に家庭生活に影響を与えるかということを、双方を織りなすことによって描いている、それによって見る人に感情の動き、エモーションを沸き起こすことが私の目的です。先ほど仰ってくださった映画作家たちは確かに私の好きな映画作家ではあるのですが、近いかどうかという問題で言えば、私はマイク・リーに近いと思います。


『パパは奮闘中!』
英題:OUR STRUGGLES

4月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督・脚本:ギヨーム・セネズ
共同脚本:ラファエル・デプレシャン
編集:ジュリー・ブレンタ
出演:ロマン・デュリス、ルーシー・ドゥベイ、ロール・カラミー、レティシア・ドッシュ

© 2018 Iota Production / LFP - Les Films Pelleas / RTBF / Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

2018年/ベルギー・フランス/99分
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル

『パパは奮闘中!』
オフィシャルサイト
http://www.cetera.co.jp/funto/
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