OUTSIDE IN TOKYO
GUILLERMO ARRIAGA INTERVIEW

『あの日、欲望の大地で』
ギジェルモ・アリアガ オフィシャル・インタヴュー

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シャーリーズ・セロンとキム・ベイシンガー、2人のアカデミー女優の出演が話題になっている。2人とも大変素晴らしいのだが、負けず劣らず素晴らしい存在感を発揮しているのが、新人のジェニファー・ローレンス。女優ジョディー・フォスターの久々の監督作品にも出演が伝えられている彼女は、アリアガ監督にオーディションで選ばれたのだという。
アリアガ:まず一つ初めに言っておきたいことは、ジェニファー・ローレンスは、この映画を撮ったとき、17歳で演技の指導を受けた事が一度もありませんでした。私は彼女の世代の新たなメリル・ストリープの出現かと思いました。メリル・ストリープと同じ道を進んでいるのが、シャーリーズ・セロンであり、ジェニファー・ローレンスです。本当に大女優の範疇に入る女優だと思っています。
キャスティング・オーディションの初日で、私はジェニファーに決めていました。彼女とサンティアゴ役のJ・D・パルドはオーディションの初日で決まりました。最初に彼女を見たときに、彼女こそこの役にふさわしいと思ったのです。彼女と一緒に映画を撮れて、その映画が日本で公開される事を光栄に思っています。
ジェニファーとJ・D・パルドが2人で絡む役だったので、オーディションの時に同じシーンで2人に即興の演技をしてもらいました。それを観ていた、キャスティング・ディレクターとその助手は思わず泣き出してしまいました。オーディションの部屋はいつも緊張して冷たい場所なのですが、2人が泣き出したのを見て、とても感動しました。是非皆さんには、そういう点も注目してみて頂きたいです。
又、驚くべき事に、シャーリーズ・セロンもジェニファー・ローレンスも、そして私も含め、皆撮影を毎日、とても楽しんでいました。切り替えがとても早かったので、ついさっきまで冗談を言っていても、アクションになるとすぐに切り替わる、そんな現場でした。

『モンスター』(03)、『スタンドアップ』(05)、『告発のとき』(07)でシリアスな役柄を演じきり、社会貢献活動にも積極的に参加しているシャーリーズ・セロンが出演のみならず、作品に惚れ込んで製作総指揮にも名を連ねている。彼女の本作に対するコミットメントはどのようなものだったのだろうか?
アリアガ:シャーリーズはクリエイティブな意味での製作総指揮なので、お金としてではなく、彼女の才能とプロデューサーとしての才覚を本作に与えてくれました。キム・ベイシンガーを選んだのも彼女ですし、私たちに色々な提案をしてくれました。
彼女は本当に知性があって、楽しく、ユーモアのある女優です。ですから、撮影現場でも彼女は明るく、尊大な所がなく、自分で作ってきた手作りの差し入れを分け隔てなく、技術の人やスタッフに配ったりしてくれる、とても気配りのある人でした。
そんな知性のある女性に対して、おかしな演出をする事は出来ないので、自分も知性のある演出をこころがけました。今回とても幸福だった事は、2大オスカー女優が自分の目の前で、自分の脚本を演じてくれた事です。彼女達は、今まで幾度となく偉大な監督達と一緒に仕事をしてきていますし、とても光栄でした。

映画は冒頭から、ただならぬ雰囲気漂っている。シャーリーズ・セロンが演じるシルビアの生い立ちが最初は分からないが徐々にストーリーの展開と共に明かされいく。最後には畳み掛けるように物語が編集され展開していく。脚本を執筆する段階から、このような編集を考えていたのだろうか?
アリアガ:脚本の時からその通りに書いていました。そして、その通りに撮ったのです。編集でドアが開いたり、閉めたりする事を一致させようとする事はとても困難です。あれは、前もって脚本に書いてあった事です。
この映画で描きたかった事の一つは、一人の人間の決断が、周りの人間のみならず、何世代にも渡る人々、その人生に影響を及ぼすという事です。そして、10秒で決めた決心は、実は50年前に起こった出来事がきっかけであったりするのです。

女性の内面がとてもリアルに描かれている。正に、脚本家、小説家としてキャリアを築き上げて来たアリアガ監督の真骨頂といえる。
アリアガ:まず、一番重要なのは俳優であり、俳優に情熱を傾けたいと思っています。友達の監督には、「自分の美しい絵を汚すから、俳優が大嫌いだ。」という人もいますが、その監督は大した監督ではないから気にしなくてもいいです。人生や、人間が今生きているという状況を、常に表現したいと思っています。なかでも、女性の世界を常に大切に思っています。
アフリカにある伝説があります。あるアフリカの部族では重い魂と軽い魂があると言われます。誰かが気を失った時は、軽い魂がちょっと抜けている状態です。夢を見ている時は軽い魂が旅をしています。頭がおかしくなった時は、魂がどこかに行ったまま、戻って来ない時です。そして、人が死ぬ時は重い魂が抜けていきます。人が亡くなる3年前に軽い魂が抜け出て、死までの道のりを作ると言われています。軽い魂が進む死の道筋は、二つあって、一つはアフリカのバオバブの樹です。上から見ると世界が見下ろせると言われている木です。二つ目の場所は生理中の女性の所です。何故ならば、生理中の女性は、5日間の間、血液と痛みの中で、人生の生と死の間の境界を知っているからです。
軽い魂は女性の方が複雑で深いものだという事を分かっています。女性は生と死を知っている訳です。そして、軽い魂が重い魂にあそこにたどり着かなければいけないと教えます。
私を含め、クリエイターは今まで見た事がないものが、ここにあるのだ、という事を教える立場にあると思います。そして、それに必要不可欠なのが女性です。何故ならば女性はその場所を知っているからです。

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