OUTSIDE IN TOKYO
RYUSUKE HAMAGUCHI INTERVIEW

濱口竜介『寝ても覚めても』インタヴュー

2. 演出の勉強をしたいと思っても資料がなかなか残ってないっていうことは、
 一若手監督として悩んでいました

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OIT:濱口さんが実際に試みたのはいつのことですか?
濱口竜介:本読み自体は『親密さ』(12)の頃からやっていると言えばやっているんですけど、それを方法として徹底したのは『ハッピーアワー』です。
OIT:元の“イタリア式本読み”が行われていたのはロッセリーニとか、ネオレアリズモの時代のことでしょうか?
濱口竜介:いや、多分舞台の方だと思いますね、イタリアの喜劇とか舞台の方の流れが、ミシェル・シモンっていうジャン・ルノワールの映画に出ていた俳優を通じてジャン・ルノワールに伝わって、それでそれを晩年よくパフォーマンスするようになったということらしいのです。ただ本当に使っていたか、実のところ定かではない。研究者の方も俳優がその本読みの演出を受けたっていう証言も実はあんまり見つけないらしいんです。晩年あまり映画を作らなくなったルノワールが、テレビで自分の演出をパフォーマンスする際に“イタリア式本読み”をやるようになったということらしい。ただ、実際ジゼル・ブロンベルジェにやったのは非常に効果てきめんに見えた、これは非常に優れたパフォーマンスという気はしました。
OIT:プロの俳優ではなくて素人さんを演出する上でということですか?
濱口竜介:おそらく分け隔てないですね。そもそもミシェル・シモンは抜群のプロの俳優ですし。ただプロの俳優の方とやる時とアマチュアの方とやる時とは、多分けっこう勝手が違うでしょうね。ちなみにブレッソンもイタリア式本読みをやってるらしいです。
OIT:ブレッソンは“モデル”という概念ですね。
濱口竜介:ひたすら本読みをやるっていうことをしているらしいんですけど、ジャン・ルノワールはプロフェッショナルな役者さんとやっていて、ロベール・ブレッソンは経験のない人とやることを好んだ。同じ方法でも出てくるものは全然違いますよね。
OIT:今回の作品はカンヌのコンペティションで最初に上映されたわけですが、その時もこういう話になるわけですか?
濱口竜介:いや、これは恐らくそこまで伝わってないというか。まあ「自然な演技ですね」「ありがとうございますっ」ていうようなぐらいで、そんな聞かれてもいないのに、ぺらぺら喋るものでもないので。記者会見ではちょっと言いましたけど、そこでもジャン・ルノワール由来であるとは別に言ってませんね。
OIT:なるほど。日本の映画監督で、ご自分から言っている訳じゃないから、こういう風にあんまり言われるのもちょっと抵抗があるかもしれませんが、「メソッド」というようなことを言う人は滅多にいませんよね。
濱口竜介:ええ、どちらかというと本当に嫌です(笑)。まあ分からないですね。小津はリハ初日に自分で本読みをする、役者を集めて自分で本読みして全員に聞かせたっていうのは有名な話ですけど、小津の演出が厳しかったっていうのはやっぱり自分のやってるように読めっていうことでしょう。本読みっていう点ではつながっていると思います。あとは日本では、相米慎二さんがひたすらリハーサルをしていたとか、そういうエピソードはありますけど、実態はわからない。演出の勉強をしたいと思っても資料がなかなか残ってないっていうことは、一若手監督として悩んでいました。どういう風に演出をしたらいいのかっていうのが、それこそ資料として日本語で残っているものが非常に少なかった。それは悩ましいところだったので、ジャン・ルノワールのものに頼ったっていうことでしょうか。

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