OUTSIDE IN TOKYO
RYUSUKE HAMAGUCHI INTERVIEW

濱口竜介『寝ても覚めても』インタヴュー

5. キャラクターが勝手に走り出した

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OIT:さらに具体的なシーンについて聞きたいのですが、屋外の階段のシーンも非常に良かったのですが、段差を利用しないといけないという発想があったのですか?
濱口竜介:そうですね、麦と亮平の違いをどこで見せるかっていう時に、亮平っていうのは一段下に下がる男なんだよっていうことですね、そのことによって二人の身長がほぼ同じになるっていう、そういうことが頭にありました。
OIT:麦とのシーンは、フラットというか俯瞰で撮ったりして身長差がそのままあるように撮っていたけど、そういう違いを敢えてつけてたっていうことですよね?
濱口竜介:そうですね。
OIT:濱口さんの映画ではあまり見かけたことがないようなシーンっていうのが、地震で避難するエキストラの人たちですよね、相当大規模な撮影だったと思うんですけど、ああいうのは今回が初めてですか?
濱口竜介:この規模は完全に初めてですね。
OIT:やってみればこういうことかっていう感じだったんでしょうか?
濱口竜介:いや、本当に繋いでみるまで、これが大丈夫なのかどうかっていうのがいまいち分からないっていうのが正直なところでした。150人いて、画面の中では一応それなりに埋まってるんですけど、150人のエキストラってこれまで経験したことのない数ですけど、それでもけっこう心もとないんですよ。その場にいると。大丈夫か? これ群衆に見えるのか? みたいな、そういう気持ちがどっちかと言えばすごく強くありました。そこはそのように群衆に見えてくれたなら良かったなっていう気はします。
OIT:ヘリコプターは別撮りで撮ったらしいですね。
濱口竜介:はい、そうです。
OIT:それはたまたま佐々木さんが撮っていたと。
濱口竜介:これはもう佐々木さんの反射神経というか、現場で空いてる時間に何撮ってるんだろうと思ったら、ヘリが飛んでるって言って、もう撮っていた。
OIT:さすがですね。
濱口竜介:さすがでした(笑)。
OIT:それと、具体的なシーンで言うと、終盤で二人が走っていくロングショットですね、あれはやっぱりすごくいいなと思いながら観ていたんですが、濱口さんの最初の作品『何食わぬ顔』(03)でサッカーやるシーンがあって、あの感じを思い出しちゃったんです。
濱口竜介:ありがとうございます、そうですね。服が白くて曇ってる中でも見えるみたいなところが通じますね。でもそれは本当に何も考えてなかったんですよね。(スタイリストの)宮本まさ江さんがあの服を「こういうの好きでしょ?」って持ってこなかったら全然白じゃなかったっていう(笑)。
OIT:最初は白じゃなかった?
濱口竜介:いや、ある段階から朝子といえば「白」みたいな感じに宮本さんがなってましたね(笑)。それで「こういうの好きでしょ?」と言われたら、もう「好きですっ」て言いながら決まっていったっていう感じですね。まあでも、白は大事なとこにとっておきましょうかっていう感じはありました。
OIT:ああいう躍動感があって生命の輝きというか、そういう場面を捉えるっていうのが、一つの濱口さんの映画の特徴じゃないのかなっていう風に思うんですが、そういう意識はありますか?
濱口竜介:ありがとうございます。でも、この「走る」っていうのはプロデューサーのアイデアなんです。最後、走らせたらいいんじゃないの?みたいなことを言われて、僕は、本当に走って終わる映画とかあんまり好きじゃないので(笑)、「それ大丈夫ですか?それ、なんか走ったからいいだろ、みたいな感じになりません?」みたいなことを言ってたんですけど、脚本を自分で直していたら、ここは走ってもいいのかもしれないなということを思うようになってしまって、走らせました。キャラクターが勝手に走り出したというと美しいですが、脚本を書いていても、実際撮ってみても、その点はプロデューサーが正しかったんだと思ってます。

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