OUTSIDE IN TOKYO
ICIAR BOLLAIN INTERVIEW

本作『オリーブの樹は呼んでいる』を監督したのは、あのヴィクトル・エリセ監督の名作『エル・スール』(83)で主人公の少女(8歳と15歳、ふたりの少女の内、15歳の方)を演じたイシアル・ポジャイン、そして、脚本を手掛けたのは、ケン・ローチ監督の盟友ポール・ラヴァーティである。ケン・ローチ監督に”赤毛を気に入られ”、スペイン内戦を題材にした作品『大地と自由』(95)にキャスティングされたのだというイシアル・ポジャインは、同年に監督として長編処女作品『Hola, ¿estás sola?』(95)を発表、以降今作が8作目の長編作品となる。今や、スペインを代表する映画監督のひとりである彼女は、ケン・ローチ作品を通じて知り合ったポール・ラヴァーティとはパートナーの関係にあり、ガエル・ガルシア・ベルナルが出演し、二人のコンビで制作された第一作『ザ・ウォーター・ウォー』(09)はベルリン国際映画祭パノラマ部門で観客賞を受賞した。イシアルとポールのコンビ作品としてはもちろん、イシアルの監督作品としても、本作『オリーブの樹は呼んでいる』が日本における最初の劇場公開作品となる。

映画の舞台は、樹齢2000年のオリーブの樹が実在するオリーブ農園とそれに隣接する養鶏場のあるバレンシア州カステリョン県カネット、その地でオリーブ農園を営んで代々暮らして来た一家の物語である。いまや世界の隅々にまで行き渡るグローバル資本による土地投機売買と開発の波はこの地にも及び、樹齢2000年に及ぶ巨大なオリーブの樹が、根こそぎ引き抜かれ、海外の企業に売られようとしていた。土地のものは先祖から代々受け継いだものであり、自分の一存でそうした”自然”を手放すことは出来ないと主張する祖父ラモン(マヌエル・クカラ)に対して、現役世代である父親ルイス(ミゲル・アンヘル・アラドレン)は、生活のためには仕方ないとし、樹を売り渡してしまう。日頃から祖父と仲の良かった、この家の長女アルマ(アンナ・カスティーリョ)は、父親の行動に激怒し、穏やかな性格の男友達ラファ(ペップ・アンブロス)とおっちょこちょいの叔父アーティチョークをペテンにかけて、”オリーブの樹”を取り戻すべく、”ドン・キホーテ”さながらの無謀な旅に出る。果たして、この破天荒で無計画な旅の顛末やいかに?

この無謀な旅に、友達と叔父のみならず、観客をも引きずり込んだ挙げ句、全員を納得させなければならない、という重役を担うアンナを演じたアンナ・カスティーリョは、この作品で見事、スペインのゴヤ賞新人賞を受賞、その強い瞳に宿る意思の力と内面の不安定さのアンバラスが、映画に生々しいダイナミズムをもたらしている。ケン・ローチ作品で知られるポール・ラヴァーティの脚本は、マグマのように沸き立つ闘志を内に秘めたまま、観客をドイツへのロードムービーへと巧みに誘い、イシアル・ポジャインの演出は、アルマの複雑な内面に寄り添いながら、映画のフィクションを見事にスクリーンに生起させている。現代性とユーモア、見事な語りの技術を備えた、二人の闘士による作品が日本でももっと紹介されていくことを祈りつつ、イシアル・ポジャイン監督のインタヴューをお届けする。

1. 人物造形が豊かに肉付けされていたポール・ラヴァーティの脚本

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):はじめまして、今日はどうぞよろしくお願いします。監督は今、どちらにいらっしゃいますか?背景に絵が写っているのですが。
イシアル・ポジャイン:ここはキッチンです。子どもたちが描いた絵なんです(笑)。

OIT:キッチンですか!なんとも可愛らしいキッチンですね。それでは、まず最初に感想をお伝えさせてください。今回作品を拝見して、主人公アルマの行動があまりに無謀なのですが、物語は、その無謀さを引き受けたままどんどん進んでいき、見ている内にいずれ説得されてしまう。そもそも若者というのは、これ位無謀なものであるのかもしれません。そこでお聞きしたいのですが、アルマの性格は、脚本の段階でかなり出来上がっていたのか、あるいは、監督が演出していく中で特徴付けられていったのでしょうか?
イシアル・ポジャイン:アルマの性格は、ポール・ラヴァーティの脚本の中で定義付けされていて、肉付けもされていました。ほとんど出来上がっていたんです。それからキャスティングを行いました。タフで素朴な感じのキャラクターなのですが、観客が彼女に恋をする、魅力的な主人公であることが大事なわけですから、アンナ・カスティーリョをキャスティングすることが出来たのは幸運でした。

OIT:アルマは、クラブに行って踊ったりする時は、ドレスを着てセクシーな大人の女性の一面を見せますが、普段は緩めのジーンズにコンバースという格好で少年のようにも見えます。そうした衣装の違いによって、アルマというキャラクターの二面性を表現されていましたね。
イシアル・ポジャイン:そうですね、彼女は二面性を抱えている、父親との関係がまさにそうなのですが、優しい、愛らしい一面もあるけれども、荒々しい部分も持っている、ということは、既に脚本の段階で書かれていたのですが、実際のキャラクターを創り上げる段階で、服装とか、仕草といったものを考えていきました。やはり、とても魅力的に見えると同時に、自己破滅的な一面を見せる必要がありました。アルマには、常に自分を良く見せたいという感覚はないのです。セクシーな一面を見せようと思えば、見せることも出来るけれど、自分のことにそれほど重きを置いていない。そうしたことは、実際に撮影をしながら、かなり考えましたね。それぞれのキャラクターは、ポールの脚本の段階で、とても豊かに肉付けをされていたのですが、実際に撮影をする段階で、加えていった部分というのはあります。

『オリーブの樹は呼んでいる』
原題:El Olivo

5月20日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

監督:イシアル・ボジャイン
脚本:ポール・ラヴァーティ
製作:ミヒャエル・ヴェバー、フアン・ゴルドン
音楽:パスカル・ゲーニュ
撮影:セルジ・ガリャルド
出演:アンナ・カスティーリョ、ハビエル・グティエレス、ペップ・アンブロス、マヌエル・クカラ

© Morena Films SL-Match Factory Productions-El Olivo La Pelicula A.I.E

2016年/スペイン/99分
配給:アット エンタテインメント

『オリーブの樹は呼んでいる』
オフィシャルサイト
http://olive-tree-jp.com
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