OUTSIDE IN TOKYO
Jeanne Balibar Interview

ジャンヌ・バリバール『何も変えてはならない』インタヴュー

4. ペドロは子供たちを笑わせるのがとても上手で、
 それは彼の映画でも、とても大切な要素だと思う

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OIT:歌っている時は、演技をしている時より、自分らしいというのはありますか?
JB:いいえ。私にとっては本当に同じことよ。演技をしている時よりも、歌を歌っている時のほうが本当の私に近いかというのは、言えないと思う。

OIT:では、なぜ音楽をやることが必要なんですか?
JB:それは、自分が間違った方向に来てしまったのではないかという思いがあるから。元々、女優よりも、ミュージシャンだったのではという意識はあるの。若い時、例えば、演劇学校にいる時、先生たちに、「ジャンヌ、あなたのやっていることは音楽的すぎるのよ」って言われたの。だからいつでも、女優としては音楽的すぎたの(笑)。

OIT:でも、それが素晴らしいという人も多いですよね?
JB:うーん、まあ、そうかもしれないけど、それはとてもトリッキーなことね。女優として音楽的すぎるということは。それは技巧的なところに、すぐに陥る危険性があるから。ある意味、危険なの。そして私も実際にそうだと気づいていたし、ある時、ロドルフらと一緒に音楽をやる機会があったの。それは私にとってより楽なことだった。私はずっと、自分の演技をあまり音楽的にしないように心がけてきた。でも音楽が必要だったのよーー(笑)!
それでも、音楽がとても好きなのは、やっぱり自分らしいからだと思うわ。自分はとても音楽的な、うーん、例えば、芸術に携わる人は、芸術の他の分野にも通じる感性を持っていると思うの。例えば、絵画の感性を持っている人がいる。でも役者をやっていても、絵描きにずっとなりたかった人もいると思う。分からないけど、北野武みたいに。それか、ずっと他のこともやりたいから、ひとつの芸術の分野でやったりするのかもしれない。そして自分がやること全てに、そのもうひとつの芸術を探し求めているのかもしれない。それに、音楽はとても民主的だと思う。音楽の周辺で、何かとてもおもしろいことが、政治的に起きるものだと思う。そこは最も民主的な場所にもなり得る。例えば、きのうの夜は朝8時に寝たんだけど、それは日本で会ったバンドと一晩中、一緒に演奏していたから。音楽ほど民主的なものはないと思う。同じ場所に人が集まって、みんなで演奏して、みんなが違う演奏をする。ドラマーが途中でベースを弾いたり、私のバンドのキーボード奏者が今度はドラムを叩いたり、誰かがすごくうまいとか、誰も気にしない。例えば、その日本のバンドのドラマーはものすごく上手くて、彼がドラムを叩いている時はもちろん、ドラムは素晴らしい。それに私のバンドのキーボード奏者が鍵盤を弾いてる時も素晴らしい。でもそのすぐ後に、日本人のドラマーがベースを弾きたがり、今度は私の友達がドラムを叩き始めたから、ドラムはそこまで上手くはなかったんだけど、誰も気にしてなくて。音楽には何かそういう魔法があって、みんな何かしら語りたいことがあるの。自然と、歌う人だけでなく、サックスもしゃべるし、ベースもしゃべるし、ハーモニーもあれば、本当に民主的なもののイメージそのものだと思うの。かたや、私たちの社会の、本当にファシズムを体現するものにもなり得るんだけどね。いつもテレビの中で見る、例えば、音楽のそういう滑稽な観念があって、断固、こうでなければいけないとかになると、それこそ本当にファシズムだと思う。

OIT:あなたはその時、何をしていたのですか?
JB:私もその場にいたけど、特に楽器は演奏していなかった。私は何も楽器が弾けないの。

OIT:そう言えば、さっきフランス人の女優の名前は1人も挙ってこなかったですね。尊敬する人で。
JB:たくさんいるわよ(笑)。たくさんいすぎて分からないわ。でもいるはず。ダニエル・ダリューはとても好きよ。カトリーヌ・ドヌーヴの演技も好き。彼女の妹(フランソワーズ・ドルレアック)の演技も。ヌーヴェル・ヴァーグの人たち、つまりビュル・オジェ、ベルナデット・ラフォン、ジュリエット・ベルトは一番好きだし、クリスティーヌ・ボワソンもすごく好き。若い頃のサンドリーヌ・ボネールも。今は違うけど(笑)、初期の頃に彼女が成し遂げたことは本当に素晴らしいと思う。本当にたくさんいるわ。

OIT:さっきはアメリカ人の女優ばかり挙げていたからね。
JB:そうね。アメリカ人の女優に影響を受けてきたことの方が大きいわね。

OIT:自分の映画を作りたいという欲求は?
JB:……、分からないわ。

OIT:カメラの反対側にいたいという気持ちは?乗り物としてではなく。
JB:そうね。ずっと前にショート・フィルムを撮ったけど楽しかった。でもそれを今やりたいかどうかは分からない。実験的な映画を作りたいという欲求が生まれることはたまにあるし、アイデアもあれば、始めたいという強い欲求に駆られることもある。でも、それよりも演技と音楽をやることにもっと惹かれるの。何でもかんでもやるのはむずかしいから。

OIT:確かに、時間が足りないよね。
JB:ええ。このペドロの映画を見た時は本当に驚いたわ。ニコラス・レイの映画を思い出したくらい。そこに物語が見えたの。そこまで物語性があるとは思っていなかったから。それに、彼のユーモアが特に好きだった。ペドロはとてもおかしな人だと思うの。彼のユーモアが大好き。イギリス人のようなユーモアがあって(笑)、一緒に時間を過ごしてみると(分かるけど)、彼はあまり表にださないからすぐに分からないし、あまり口数も多くないから。でも、ペドロが子供たちと一緒にいるのを見るととてもおかしい。ペドロは子供の相手をするのがすごく上手なのよ。とてもおかしいから。子供たちもそれをすぐに分かるの。彼は子供たちを笑わせるのがとても上手で、それは彼の映画でも、とても大切な要素だと思う。そして正直に言って、この映画はとてもおかしいの。映画自体がジョークのようでもあり、神話的でもある。でも彼は同時に、映画の持つ神話的な力を茶化してもいる。最初から最後まで。それがとても好きなところよ。とてもおかしいから。それは本当に彼自身の中から出てくるものだから。

OIT:彼が言っていたんだけど、『アバター』と同じように、自分の映画も、同じ映画館で見せたいと話していたのがとても印象に残ったんです。僕もそれには賛成だけど。でも違う日に、彼に『アバター』は見たんだよね?と聞くと、「もちろん、見てないよ」って言うんです。彼が見たものだと勝手に僕が思っていただけで、彼がいろんなエンタテインメント映画も見ていると話していたから。それで、「どうしてそんなこと聞くの?もちろん、見てないさ」みたいに言い方がおかしかったので、僕はそれを思い出しました。
JB:あなたは『アバター』が好きだったの?

OIT:いえ、僕も見てないんです(笑)。
JB:えっ、見てないの(笑)?! どういうこと?

OIT:だからおかしかったんです。2人でまじめな顔して『アバター』の話をしているのに、2人とも見てなかったんだから。
JB:もう、まじめにやりましょう(笑)。



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