OUTSIDE IN TOKYO
Jean-Stephane Sauvaire INTERVIEW

ジャン=ステファーヌ・ソヴェール『ジョニー・マッド・ドッグ』インタヴュー

2. 内戦後、復興期のリベリアで撮影し、実際の元少年兵たちに出演してもらった

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OUTSIDE IN TOKYO:ところどころで感情移入しやすい、一般的な映画とはまた違うものを意識したんですよね?
ジャン=ステファーヌ・ソヴェール:うん、そうだね。僕自身、メロドラマにならないように、子供たちの現実をきっちり捉えたいという思いがあった。テーマは衝撃的で、微妙でもある。だからこそ、決して単純なメロドラマにならないように意識していた。でもこれがハリウッド映画なら、つまりハリウッド的な撮り方でこのテーマを扱う時、例えば、いくつかの段階に分けて撮っていくと思う。子供たちが拉致され、戦争に入りこんでしまったことを認識し、泣くシーンがあったり実際に戦場へ駆り出されたりしながら感情に合わせて進んでいき、段階毎に感情が進化していくような撮り方をしたんじゃないかと思う。でもそういうハリウッド的、娯楽映画的な撮り方は避けたかった。少年兵になった子供たちは誘拐されてきたわけで、その時点で学校教育を受けられる状況でも全くなかった。元々、家族のいない子もいる。だから日本にいる12歳の子供が現在の東京で誘拐され、少年兵として戦争に駆り出されたとして、その12歳の子供が歩んでいく気持ちと、このアフリカの少年兵の子供たち、街ではなく田舎の村に暮らし、まともな教育も受けていないような子供たちが、ある日突然、戦争に駆り出されるのとでは、状況的に、気持ちの進み方が全然違うと思う。そもそも教育を受けていないわけだから。ある意味、子供たちは戦争に参加するとそれだけが自分の世界になってしまい、戦うしかない状況に追い込まれるので、そんな実際のアフリカの子供たちの心理にきちんと焦点を当てながらセンチメンタルにならない作品にしようと思ったんだ。

OUTSIDE IN TOKYO:この作品のリアリティとフィクションのバランスは?
ジャン=ステファーヌ・ソヴェール:この『ジョニー・マッド・ドッグ』には、エマニュエル・ドンガラによる『Johnny Mad Dog』という原作があって、2人の子供が登場する小説を元に作られた。原作は2章に分かれ、1章では男の子ジョニーの話が描かれ、次の章は女の子のラオコレと、章毎に各々の子供が描かれる作りだ。それでまずこの小説を元に、フィクションから入った。そこに現実を加えるかたちで、次は僕がジャーナリスト的なアプローチで、例えば、元少年兵に会ったり、実際の戦争の状況を調べたりしながら、現実の、実際に起きたことを自分で加えていく作業に入った。だから元々の小説と、僕が知り得た現実をうまく組み合わせることで、フィクションでありながら、リアリティのある映画を作ろうとした。それに今回は特に、ドキュメンタリーではなく(劇)映画を作りたいと思った。どういう点で違うかと言うと、既に起きていることを追いかけるのをドキュメンタリーとするなら、逆に(劇)映画は最初に視点を定めてから話を組み立てていく。そして荒削りで加工されていない素材をベースに、フレーミング的には(劇)映画として撮っていく。僕は35ミリフィルムで撮っているので、そこも(いわゆる)ドキュメンタリーとも少し違うし、映画を撮る上で、ドキュメンタリーよりも感情に訴える効果が高いと思う。そんなわけで僕の作品にはドキュメンタリー的な面とフィクションの面という、ある意味、2つの面を持っていると言っていい。そしてフィクションでもできるだけリアリティを加えて撮りたかった。

映画を撮る最初の状況として、僕自身が監督として、また見てくれる観客にも、実際に撮った中身を信じられることが必要だった。というのは、リベリアまで出かけて行き、リベリアは実際に内戦があった、戦後の復興期にあったわけだよね。そこで実際に元少年兵たちと仕事をする上で、実際にリベリアで起きた状況を自分が信じる、あるいは咀嚼することが必要だった。だからフィクションでありながら、できるだけ現実を踏まえた、事実に則した場所を目指すことが自分にとっても必要だったんだ。

OUTSIDE IN TOKYO:戦争写真を参考にしたとか、映像的な指針になったものはありますか?
ジャン=ステファーヌ・ソヴェール:写真に関してはエンド・クレジットに名前が出ているけど、実際にリベリアで1989年から2003年までの内戦を写真に撮っていたパトリック・ロバートという人がいて、彼の写真をずいぶん参考にした。そしてこの戦争を実際に扱ったドキュメンタリーは少ないなりに1本だけあったのでそれも参考にした。それでもこのロバートの写真で表現されている現実はとても役に立った。例えば、実際のコンゴの少年兵は軍服を着ていたけど、映画の子供たちに少し変わった、仮装のような格好をさせ、ウェディング・ドレスを着たりカツラをつけていたりと、ちょっと違う世界の子供像が描かれており、子供らしさというか、子供時代をちょっと感じさせる格好にした。でもあえてそんな仮装をさせることで、映画で言えば、『時計じかけのオレンジ』(71)みたいな仮装イメージを意図的に取り込みもうとしたんだ。

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