OUTSIDE IN TOKYO
Jean-Stephane Sauvaire INTERVIEW
ジャン=ステファーヌ・ソヴェール『ジョニー・マッド・ドッグ』インタヴュー

薄くしなやかな筋肉のついた痩せた身体の少年と、重くて鈍い銃器のコントラスト。平和な世界ならば玩具の銃で遊ぶ子供にしか見えないが、彼らの銃口が向けられた対象は血を噴き出して一瞬にして倒れる。大人たちがいくら命乞いをしても、白い歯を覗かせ、迷うことなく檄鉄が引かれる。それはどんなホラーよりも恐ろしく暴力的な映像だ。やさしくしたいはずの子供たちに、無慈悲にも殺される図。

それが実際にアフリカの一部の国々で起きていた現実だ。ルワンダを筆頭に、内戦という名の民族紛争の下に子供たちが拉致され、親を亡くした難民や孤児の中から、少年兵団を組織させられる。そして生き残るために、上からの命令は絶対であり、背けば死が待つ。そんな上官もまた少年に過ぎない。

ジャン=ステファーヌ・ソヴェールの『ジョニー・マッド・ドッグ』は、アメリカの影響色濃いリベリアを舞台に、そんな少年兵たちの姿を描く。政治的な理念も持たず、自らの恐怖を断ち切るように、目の前の殺戮と強奪を繰り返す日々。

ジョニー・マッド・ドッグ(狂犬ジョニー)と呼ばれる少年兵の一人は手当たり次第に、彼の考える“敵”を殺戮し、戦利品を身につけていく。それは際限のない暴力的な遊びのようで、リアルな“ゲーム”にさえ見える。威圧的な上官に対して強さや勇気を見せる方法が、可能な限り、多くの敵を撃ち殺すことであり、自らが生き残る方法でもある。戦利品の花嫁衣装を着て小銃を持つ少年や、食料となる豚をペットのように抱える少年など、観客も、狂気と子供らしさの間でどちらを信じたらいいか分からなくなる…。

そんな中でジョニーは足を失った父親と幼い弟を支えながら避難する少女、ラオコレを瓦礫の陰に見つけるも、なぜか黙って彼女を見逃す。だが狂気の中のふとした正気の瞬間を見つけても安心はできない。彼はすぐさま別の獲物を容赦なく撃ち抜いてしまう。

政治的な背景や正当性よりも、畳み掛ける少年兵の現実をまざまざと見せつけるこの映画に救いはない。ハリウッド映画に見られるような安心や楽観的な終わりもない。殺すか殺されるかの非情な世界が目の前にあるだけ。だが映画は強烈なパワーを放ちながら、説教もせず、道徳的な啓蒙もないまま終わる。加害者である彼らは絶対的な被害者でもある。そもそも戦いを強いる大人たちのために、彼らは殺し、殺され、終戦後も全てを心の奥にしまいこむ犠牲者なのだから。見終わった後、僕は両の拳で汗を握りしめていた。どんよりと疲れ、深い無力感が残る。だが映画はセンチメンタルな感傷に逃げることさえ許さない。そこでリベリアに2年も滞在し、実際の少年兵たちと話し、彼らを映画に起用することで、『シティ・オブ・ゴッド』(02)よりも非情で強烈な映画を撮ったソヴェール監督に話を聞いた。温厚な雰囲気の彼に、なるべく明るく。

1. 単純な“語り”の映画にするのでなく、“見せる”映画にしたかった

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OUTSIDE IN TOKYO:初めての日本はいかがですか?
ジャン=ステファーヌ・ソヴェール:日本に来られて本当に嬉しいし、大満足だね。映画を撮っているのでいろんな国へ旅行する機会があるけど、世界中どこへ行っても同じ店があったり、街並みも似ていたり、どの国も同じようになってきているけど東京は違う。東京には独特で強い文化があって、魅力的だよ。

OUTSIDE IN TOKYO:日本にいるとあまり意識しなくなるけど、自分の国についてもそういうものですか?
ジャン=ステファーヌ・ソヴェール:そうかもね(笑)。パリは美しくもあるけど、とても古く保守的な街で、個人的には、人をあっと言わせる街になる可能性も持っているのに、今は場としてのエネルギーを欠いている。パワー、クリエイティヴという意味で何かが欠けている気がする。

OUTSIDE IN TOKYO:それでこのパワー溢れる映画でガツンとかまそうと思ったとか(笑)?
ジャン=ステファーヌ・ソヴェール:(笑)まあ、フランス人らしいフランス人って認識もないんだけど。

OUTSIDE IN TOKYO:僕はこの映画を見て「バーン!」「ドン、ドーン!」とすごい衝撃を受けました。そんな強さは意識されたんですよね?
ジャン=ステファーヌ・ソヴェール:僕自身が強い映画にしようと思ったというより、テーマそのものが既に強かったんだ。テーマそのものがショッキングで挑発的でかなり暴力的だっただけ。それが単純にショックを与えるだけで終わってしまうと残念だけど、子供たちが戦争に駆り出され、少年兵として戦わされ、暴力に訴えるよう操られていくなかで、そうした現実を間近に見て、子供たちが暴力的な世界を実際に生きてきたことを実感した。それでも子供たちの生きてきた、子供たち自身の人生だ。そして実際の状況と合わせて、内戦の状況と子供たちの実情を観客にも見てもらいたかった。だから単純な“語り”の映画にするのでなく、“見せる”映画にしたかったんだ。

『ジョニー・マッド・ドッグ』
原題:JOHNNY MAD DOG

4月17日(土)よりシアターN渋谷他、全国順次ロードショー

監督・脚本:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール
製作:マチュー・カソヴィッツ、ブノワ・ジョベール
撮影:マルク・コナンス
原作:エマニュエル・ドンガラ
出演:クリストフ・ミニー、デジー・ヴィクトリア・ヴァンディ

2007年/フランス・ベルギー・リベリア/35mm/カラー/ドルビーSRD/98分
提供・配給:インターフィルム

© 2008 - MNP ENTREPRISE - EXPLICIT FILMS

『ジョニー・マッド・ドッグ』
オフィシャルサイト
http://www.interfilm.co.jp/
johnnymaddog/
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