OUTSIDE IN TOKYO
JERZY SKOLIMOWSKI INTERVIEW

イエジー・スコリモフスキ『エッセンシャル・キリング』インタヴュー

3. ピンクの光に気付き、
 「ヴィンセント!君は向こうへ走れ。私たちはカメラで追うから」と言った

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OIT:また、もう1人の人間が浮かんできます。オサマ・ビンラディンです。それは政治的な話になるので触れたくないかもしれませんが、僕の中では彼を連想させる瞬間がありました。
JS:聞いてくれ。私はあらゆる解釈となるようにこの映画を意図的に曖昧にした。その上で、どんな解釈でも私は快く迎える。それがどれだけ矛盾していても(笑)。

OIT:そこには触れたくないということですね。
JS:そうだね。

OIT:分かりました。また、犠牲者、加害者という立場を必要以上に強調していませんね。観客として私たちは主人公に加担し始めてしまいます。その犠牲者、加害者の関係のバランスの描き方はもちろん意識してのことですよね。
JS:もちろん、男を好きになれない人もいるだろう。米兵を殺す彼を忌み嫌う人さえいるかもしれない。それでも、我々は虐げられ者たちを応援する習性を持っている。例えばスポーツでもそう。Aチームがアマチュアと試合をしたとする。観客はアマチュアに点が入るよう応援するだろう。チャンスを与えるために(笑)。もちろんその反応は計算済みだよ。自分の考えたことを伝えるために。

OIT:エマニュエル・セニエが印象深い役で登場しますね。主人公を迎え入れる耳の聞こえない、いや、口をきけない女性でしたか?
JS:それははっきり言明されていないが、彼女は話せないんだ。

OIT:そして男は耳が聞こえなくなったため、話せない。そのバランスはもちろん意図的なものですよね。
JS:もちろん。脚本を書いている時、また言葉の問題が出てきた。ここでもまた、その部分の舞台がどこであるかという情報は全く差し出したくなかった。ポーランド、リトアニア、ルーマニアだろうと。彼女にはしゃべらせるわけにいかなかった。それには彼女は口がきけないとするしかなかった。書いている時、そのロジックが自然と決めていった。エマニュエルはその役を受け入れ、私は一緒に仕事ができてとてもうれしかったよ。

OIT:それだけでなく、映画はとてもミニマルですね。それは撮影のミニマルさにも繋がっていると思います。
JS:もちろん。

OIT:でも同時に、ミニマルな映像も時に雄弁だったりします。水の流れ、氷の溶け方など多くの情報があります。撮影監督とはどのように話し合いましたか?
JS:『アンナと過ごした4日間』で一緒に仕事をした撮影監督と同じだ。だから伝えるのに問題はなかった。彼もまたペインターだから。2人の間には共通した美意識が流れている。だから実質的に、一緒に映画を作る状況でも話し合う必要などなかった。その前の映画で話し合いは十分に済んでいたので今回は言葉を使わずともサイン・ランゲージで十分だった。新しいロケ地で撮るにしろ、言葉などいらなかった。私が右から左へ抜けてほしいと思っている時も彼には分かる。(アダム)シコラはとても賢い。彼と作曲家のパヴェウ・ミキーティンがこの映画の一番近いコラボレーターだ。

OIT:主人公が言葉を奪われた分、風景がとても多くを語っていた気がします。とても美しかったです。ですが、美しすぎることはないですか(笑)?
JS:それは自然のままだから。もし風景を美しいと思えば撮らない手はないよね。最後の瞬間に捉えたピンクの風景はワンテイクで、他のシーンを撮影する時に、もう他を撮るには遅すぎたけど、ピンクの光に気づいた。それで「それじゃ、ヴィンセント!君は向こうへ走れ。私たちはカメラで追うから」と言った(笑)。それもワンテイクで。

OIT:遠くから見やるシーンですね。あと、ロマン・ポランスキーの最新作『ゴーストライター』のシーンであなたのペインティングがありますね。そしてあなたはこの映画で彼の妻のエマニュエル・セニエを起用しました。ポランスキーとはずいぶん長いつきあいですね。
JS:もうずいぶん長いね。私だって彼と同じくらいエマニュエルを知っているんだ。彼が彼女とつきあい始めた1ヶ月後くらいからで、私たちも長きにわたる友人で、いつか一緒に仕事できるといいな、とずっと話していた。それがようやく実現したわけだ。


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