OUTSIDE IN TOKYO
JERZY SKOLIMOWSKI INTERVIEW

ポーランドの奇才と呼ばれ続けたイエジー・スコリモフスキ監督の最新作『エッセンシャル・キリング』は早い段階から話題になっていた。なにしろ主演がヴィンセント・ギャロなのだから。17年ぶりの監督作だった『アンナと過ごした4日間』がじんわりと観客を獲得していったのと違い、今度はいきなりヴェネツィア国際映画祭の審査員特別賞とギャロに主演男優賞をもたらしてしまった。記憶を辿ると、『アンナ〜』の取材時、映画の撮影場所となった森の近くの自宅の小屋周辺で映画を撮りたいと話していた。画家としても活動する彼が多くの絵を描く小屋の窓から見える風景とそこで起こる物語。そのあまりの規模の違いのためか、その話を思い出すのに少し時間がかかった。だが蓋を開けてみれば、映画はとてもシンプルだ。戦争状態の中東の砂漠地帯で1人の反政府兵かテロリストと思しき男が捕虜となる。攻撃された時の衝撃で男は耳が聞こえなくなったようだ。そして雪深い別の地へ連行される途中に事故にまぎれて逃走すると、男はひたすら自らの生存を賭けて逃げ続ける。全編台詞もなければ場所や状況の説明もない。自らの生存を妨げるものを乗り越えるために殺すだけだ。どこから来て、どこへ逃げるのかも関係なく、男はひたすら生きるために逃げる。それは“テロリズムと正義”の循環を端的に表しているようでもあるが、あえて多くは語られない。そこまでシンプルに留めることのできる勇気を持つ監督はそういないだろう。答えでもなければ、問題提起でさえなく、本人には、ただあるがままを撮ったに過ぎないと言われそうだ。そんな思いのまま、1年ぶりのインタビューに望んだ。

1. 名前や言葉を全く使わないことで、その曖昧さにおいて、
 物語をより普遍的なものにすることができている

1  |  2  |  3  |  4



OUTSIDE IN TOKYO (以降OIT):前作からあまり時間がかからなかったですね(笑)。“疲れている”以外に現在はどんな気持ちですか?
イエジー・スコリモフスキJerzy Skolimowski (以降JS):悪くないよ。

OIT:何か達成した感覚はあるものですか?それともあまり変わらないですか?
JS:いや、この最新作をとても誇らしく思っているよ。自分が今まで撮った最高傑作だと思っている。とても良い出来だと思っているよ。

OIT:これは前回お話を聞いた時に、あなたが小屋の周りだけで撮りたいと話していた映画なんですよね?
JS:そうだね。自分の家のそばで映画を撮りたいと思っていた。とても気に入りの場所だからね。そしてその場所で撮れることを願っていた。『アンナと過ごした4日間』でのように、とても居心地のよい環境でね。でも残念ながら、それは叶わなかった。それは、この映画に必要だったのが雪だったからだ。ポーランドでは必ずしも雪が降るとは限らない。大量の雪が降る場合もあれば、全く降らない年もある。それでノルウェーとの共同製作に踏み切ったんだ。ノルウェーだと毎年雪があるからね(笑)。しかもたくさん。だから映画全体を家のすぐ外で撮影するのに代わって、相当に低い気温の中で撮ることになった。裸足で雪の中を走って、ひたすら走って、走って、というシーンもあるくらいに。零下35度の中、撮影をしていた。それがどれだけ寒いか想像できるだろう。

OIT:それでも基本のアイデアは同じですか?
JS:そうだね。確か、話したのは1年前だったね。そう、アイデアは同じものだ。脚本は細かく限定して書かれているから、あまり変わっていないはずだ。

OIT:そうですか。ところで、映画の冒頭での舞台はアフガニスタンなんですか?
JS:いや、私はあらゆる情報を意図的に避けているつもりだ。名前も全く出さないし、場所を特定するような説明もないはずだ。日付さえ入れないようにした。世界のどこかの、ある緊張/戦争を描いた政治的な映画では一切ない。人によって、この映画がどこで始まるか考えるのは自由だ。アフガニスタン、イラク、パキスタンのどこでも。そしてそのあと、中央ヨーロッパのどこかの場所ではあるが、ポーランド、リトアニア、ルーマニアでもあり得る。だが名前や言葉を全く使わないことで、その曖昧さにおいて、物語をより普遍的なものにすることができている。あとは物語だけになる。男が追いかけられている。1人で大勢に立ち向かわなければならない。生命を賭けての戦いだ。そして狩られる状況から、彼は最後に野生動物のようになる。殺戮の獣に。それも全て生き残るために。つまり、普遍的な問題ということだ。

『エッセンシャル・キリング』
原題:ESSENTIAL KILLING

7月30日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督:イエジー・スコリモフスキ
製作・脚本: イエジー・スコリモフスキ、エヴァ・ピャスコフスカ
音楽:パヴェウ・ミキーティン
撮影:アダム・シコラ
美術:ヨアンナ・カチンスカ
編集:レーカ・レムヘニュイ
録音:ロバート・フラナガン
衣装:アンネ・ハムレ
メイク:バーバラ・コンウェイ
ヘアスタイリスト:ガブリエラ・ネーメト
プロデューサー:ジェレミー・トーマス、アンドリュー・ロウ
製作補:イングリッド・リル・ヘグトゥン、エド・ギニー、ヨーゼフ・バーガー
出演:ヴィンセント・ギャロ、エマニュエル・セニエ、ザック・コーエン、イフタック・オフィア、ニコライ・クレーヴェ・ブロック、スティング・フローデ・ヘンリクセン、デヴィッド・F・プライス、トレイシー・スペンサー・シップ、クラウディア・カーカ、ダリユシュ・ユジュン

2011年/ポーランド、ノルウェー、アイルランド、ハンガリー/83分/カラー/35mm/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:紀伊國屋書店、マーメイドフィルム

© Skopia Film, Cylinder Production, Element Pictures, Mythberg Films, Syrena Films, Canal+ Poland. All rights reserved.

『エッセンシャル・キリング』
オフィシャルサイト
http://www.eiganokuni.com/EK/


『アンナと過ごした4日間』レビュー

イエジー・スコリモフスキ
 『アンナと過ごした4日間』
 インタヴュー
1  |  2  |  3  |  4