OUTSIDE IN TOKYO
KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

第34回東京国際映画祭グランプリ作品
カルトリナ・クラスニチ『ヴェラは海の夢を見る』インタヴュー

4. 毎年8月に行われる「DokuFest」には本当に色々な意味でいい影響を受けています

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OIT:映画の中に演劇のシーンが出てきますが、あの演劇はこの映画用に別のシアターのディレクターが作ったものなのかということと、もう一つ、娘のサラが「9つの川があり〜」という台詞が言えなくなって役を外されるという場面がありましたが、あの台詞を言えなくなったのは何か理由があるのかというのを教えていただけますか?
カルトリナ・クラスニチ:あの演劇はこの映画のために特別に作られた場面でした、書いたのはこの『ヴェラは海の夢を見る』を書いたドルンティーナ・バシャです。劇の演出は本来劇の演出をしている人に依頼しました。私自身は演劇の演出をしたことがありませんので、映画のためにそこだけ自分が勝手に作るということをしたくなかったので、劇場の演出家に依頼したのです。そして、サラが言えなかった台詞というのは、その地域ではとても有名な物語なのですが、「お父さん、なぜあなたは私を捨てたのですか?9つの川と9つの山を超えて〜」っていう台詞ですね。それは、父親が突然死んでしまったということで、彼女が心からこの台詞を言えなかったっていうことがあります。その結果、主役から外された彼女が役としてもらったのは、もっと小さな役ではあったけれども、まさに今の自分のお母さんの立場と共鳴しているような役で、それによって彼女は、上手くその役を演じることが出来たという流れになるわけですけれども、この二つのことがお互いに補完するような形でこの映画の中では成り立っています。私は、このように劇場のライブシーンを作品に取り込むのが好きなんです。映画の本編では、女性が土地や遺産といったものを受け取ることが出来ない、自分の物にすることが出来ないということが物語られ、演劇では、女性に対して抑圧的なその地の伝統が視聴覚的に見事に表現されています。この二つの要素は、優雅な形でお互いを補完しあっていると思います。

OIT:劇中で二箇所音楽が使われていて、すごくいい音楽で印象に残っています。一つは車の中でかかった曲、もう一つは夜のカフェで若い男が歌う曲です、これらの曲はコソボで一般的に聴かれるような音楽なのか、どういう音楽なのか教えていただけますか?
カルトリナ・クラスニチ:こうした地域特有の文化を、他の世界の方々に紹介出来ることをとても嬉しく思います。あの曲は、1950年代に作られたアルバニア語で歌われている音楽です。ヴェラの年代の女性が子どもの頃から、だんだん成人になるくらいの年代にずっと聴いて育った、とても親しみのある音楽なのです。私の母親の世代や彼女の友達の世代が聴いて育った音楽でもありますから、この音楽を映画の中で流すことは、私にとってとても重要なことでした。

OIT:コソボには「DokuFest」という有名なドキュメンタリー映画の映画祭がありますが、監督が映画を作っていく上で何か影響がありましたか?
カルトリナ・クラスニチ:もちろんです、毎年8月に行われる「DokuFest」は本当に色々な意味でいい影響を受けています。私の作品も幾つも上映されてきましたし、「DokuFest」はコソボだけではなく、この地域全体においてとても重要な映画祭です。「DokuFest」は、本当に多くの形のコラボレーションに対して開かれていますし、投資や若者への映画教育を様々な関連機関と協力して行ったり、映画を作りたいという人々にとって、世界を見ることが出来る一つの大きな機会として機能しています。年に一度、様々な国からインターナショナルな映画人や映画関連業界の人々が訪れますので、そこで様々な交流が行われ、ネットワーク作りの場として活用されています。「DokuFest」が行われる、一年の内の8月という月は、私たちフィルムメイカーにとってとても重要な時期です。

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