OUTSIDE IN TOKYO
KITANO TAKESHI INTERVIEW

北野武『アウトレイジ ビヨンド』インタヴュー

3. 健さん、鶴田さんの任侠映画、深作さんの『仁義なき』シリーズ、その後、
 Vシネで右に反れたラインを真っすぐこう持ってくると『アウトレイジ ビヨンド』になる

1  |  2  |  3  |  4  |  5



Q:映画のスタイルというところでちょっとお聞きしたいんですが、今回のはかなりジャンル映画的と言いますか、フランスのジャン=ピエール・メルヴィルとかのフィルム・ノワールだったり、あるいは、会話劇というところではマーティン・スコセッシとか、そういう感じ受けたんですが。
北野武:まあ、アメリカ行けば「マフィア」の話になっちゃうんで歴史的に日本と違うし、スタイルも違うから比較が難しいけれども、多分、そう感じたのは映像的なもんだと思うね。銀残し(※本来の銀を取り除く処理をあえて省く事で、フィルムに銀を残す現像手法。市川崑監督の『おとうと』(60)で初めて使われ、その後世界中で使われるようになった。)で色をかなり抑えてるから、意外と白黒に見えるっていうかね、色は出てるんだけど、かなり照明さんとカメラマンで色抑えたんだよ。ただ、フランスっていうかヨーロッパの映画に近いって感じるのは、は女、子供を画面に出してないっていうところかもよ。ハリウッド映画と違って、いわゆる“マフィアのファミリー”の話だけど、なるだけ男だけっていうかね、余分なものは出さないっていう。『アウトレイジ ビヨンド』でも家庭とか一切出さなかったんで。どっちかって言ったらヨーロッパに近いかもね。

Q:警察とヤクザが実際のところは繋がってるっていうのもフランスのフィルム・ノワールでよくある型で、フランスのノワールのルーツを遡るとレジスタンスの頃の国家権力に対する怒りがベースにあって、今回の『アウトレイジ ビヨンド』の場合もそういう怒りがあるのかなあと思ったんですけど。
北野武:日本のヤクザ映画の流れは、(高倉)健さんとか鶴田(浩二)さんとかの任侠映画がまず全盛時にあって、今度は深作(欣二)さんの『仁義なき』シリーズがある。それから、ちょっと逸れてVシネもあるんだけど、ヤクザ映画の流れは深作さんで止まってたと思うよね。進化のグラフがあるとしたら、深作さん以降、Vシネで右に反れたラインをね、真っすぐこう持ってくると世界観は『アウトレイジ ビヨンド』で描かれているものになると思うんだよね。任侠、深作、『アウトレイジ』のラインだと思うよ。警察を描くにしても、報道でながれる事件見てびっくりするじゃない。警官が覗きやったり、ヤクザと癒着してたりね。だから実際に日本でももうそういう事件がいっぱい起こってて、ストーリー的にもリアリティを失わない時代になってきたっていう。ヤクザが暴対法で縛られてきてはいるけど、今や企業に手を出してきていて、ドンパチよりも株とかで儲けるっていう。そういうヨーロッパ的なヤクザを描いても違和感のない時代になってきちゃったんだよね。

Q:健さんの時代の任侠映画があって、深作さんの『仁義なき戦い』(73)があって、今『アウトレイジ』が、全く密度の違うものの中にあって、同時に大友というキャラクターがもの凄く不思議な感じを受けます。今回構想していて、純粋にエンターテイメントでいくならば、大友が復讐するというキャラクターにすることも出来たと思うんですけど、実際復讐はするんですけど、復讐を成し遂げたあとはよろしくってパッと帰っていくっていう大友像はもの凄く印象に強く残るんですけれども。
北野武:結局、復讐の話だと、前作同様の山王会って関東だけの話になってしまうし、大友が木村(中野英雄)とやり合う話にしかならない。そうすると関西も出て来ないし、次は山王会に対するリベンジだけで話があまり進まない。だから大友にそもそもやる気がない話にした。自分の組は潰されたし、子分も全滅してる。引退するつもりだったのに、そこで片岡刑事(小日向文世)が出てきて、大友を利用しようと引きずり出しちゃうんだよね。警察は関東ヤクザの勢力を弱めるために関西ヤクザへ顔を出したり動き回ったりしてて、関東ヤクザは身内に亀裂が入ってて。そこに大友が巻き込まれることでストーリーが広がるんだけど、大友は好きで出てきたわけじゃねえんだっていう(笑)。

1  |  2  |  3  |  4  |  5