OUTSIDE IN TOKYO
KITANO TAKESHI INTERVIEW

北野武『アウトレイジ ビヨンド』インタヴュー

4. 大島(渚)さんが「アップを多用するのは一番下手な監督だ」って言ってた

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Q:撮影について伺いたいんですけれども、監督の映画はいつもフレーミングが凄く特徴的に見えて、人が映ってる場面ももちろん怖いんですけど、『アウトレイジ』を観てると車が家の中に入っていくだけでもの凄く緊張感があります。実際にカメラマンは柳島(克己)さんがずっとやられていますけど、未だにその撮影現場で覗いてみて違うなって思う場合があるのかという質問と、実際に映画をフレーミングする時に自分でも他の人とはちょっと違うなと思われたことはありますか?
北野武:映画の撮影って、こう撮ったら次はこう撮るっていう基本の形があってね。カメラの位置関係とかも決まってるパターンがあるわけ。俺の場合はそれを教わってないし、いいやって思ってるところがあるから、昔はカメラマンに「そんなの駄目ですよ」「目線が入れ替わってますよ」ってね。対話のシーンとかでしゃっべる方の切り返し(※イマジナリーラインのこと)とかよくあるじゃない。でも今回はわざと逆に人物を置いたりしてみた。ちょっと違和感があるような、明らかに間違ってはないってんだけど、どこかあれ?っていう感じのね。『その男、凶暴につき』(89)ではわざと実験的に撮ってみたってのがあって、それはやっぱり最初の映画で馬鹿にされたくないっていうのがあったんだよね。 “お笑い”出身の人間が映画撮ったら何て言われるか分かんないし、だからかなり無茶したんだよ。例えば歩いてるシーンで、ここ(胸)から下だけを映してくれとか、絶対首入れるなとか。でもどうしてもカメラマンのフレームが顔を入れるように上がってくるんだよね(笑)。当時のカメラマンは「それやったら僕は映画界にいられなくなる、恥ずかしくてしょうがない」って言うから、恥ずかしくたって言う事聞けって揉めたんだけど。次からずっとやってもらってるカメラマンの柳島さんは、「いいんですかそんな事して?」って言いながらも撮ってくれる。『ソナチネ』(93)では夜、車が走るシーンを撮影したんだけど、カメラが少しグラグラしちゃったのね。失敗したからもう一回やらせてって柳島さんが言ったんだけど、俺はOKをだして、嫌だって言ったの。そしたら「お願いしますよ、これ腕が下手なだけですから」って(笑)。結局そのままのカットを繋いで完成したら、そのシーンが海外で褒められたりしててね。「あのカメラワークの不安な状態が、暴力の世界に入っていく不安な状況を映し出した、あのカメラワークは凄い」って書いてあって、ただ失敗しただけなんだけど(笑)。本人に見せたら頭掻いて言ってた、「失敗したのにしょうがないなー。上手く撮ったら何も言われないのにねえ」って笑ってたけど。

Q:実際こうカメラ覗いてみて近いなって思う事ありますか?人の顔がいつも近く見える、通常の映画に比べて監督のフレームは少し遠くてそれがいつも僕の中では不安に感じるのかなっていう、今回も凄く罵り合うんですけど、通常のヤクザ映画であればもっと寄るだろうというところを寄らないことによって逆にもの凄く恐ろしくなるし、それがちょっと面白さになったり。
北野武:多分、俺があんまり寄るカットを撮らないのはね、大島さんの『戦場のメリークリスマス』(83)の時に監督と一回飲んで話した事あるんだけど、映画論の話になって大島さんが「アップを多用するのは一番下手な監督だ」って言ってたのね。それがどうも残っちゃってて。昔はもっとひいた画ばかりだったね。アップでもこれ(バストアップ)ぐらいだったから、今でこれ(クローズアップに近い)ぐらいになったけど。このサイズは、相当下手だよって言ってたから、それがトラウマになってるかもしんない。

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