OUTSIDE IN TOKYO
KUROSAWA KIYOSHI INTERVIEW

小森はるか『空に聞く』インタヴュー

6. その凧は「気仙天旗」って言うんですけど、
 亡くなられた方達の数の凧を、揚げてるんです

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OIT:そこでそういうコミュニケーションがあったから、この話が出来てるということですからね。
小森はるか:そうなんですよね、本当に言えないことは絶対に言わない。そういうことをカメラの前で話す人ではないっていうのかな。

OIT:映画でなんでも映せるわけじゃないですから、カメラが映せないものっていうのはもちろんありますよね。ペドロ・コスタが、『骨』(1997)という映画は最後、扉を閉じて終わる、観客にこれ以上見てはいけないっていうことだから、あなたたちはこれ以上見ちゃいけないんですよっていうことを語っていました。その話の流れでペドロは溝口の映画『赤線地帯』(1956)に言及して、溝口もそこで扉を閉じて、これ以上先は酷いので映画には出来ないと、溝口もそういう映画を作っていますと語っていました。小森さんの映画では、そういう手法は使ってないかもしれませんが。
小森はるか:やっぱり自分が撮りたいって思う瞬間って、何かを暴こうとかそういう時では絶対思わないし、むしろ嫌な人の顔は撮りたくもないみたいな。なのでその事実を伏せるとか見ちゃいけないっていうよりも、そのこと自体を映画の中に持ち込みたくないっていうのはあるかもしれません。

OIT:「映画」っていうのは、マジックというか、ちょっとした奇跡というか、そういうことを描くんだと思うんですよね。だから僕は『息の跡』はスケールの大きい奇跡の映画だなと思っていて、一方で『空に聞く』の方はこれも奇跡の映画だと思うんですけど、小さい奇跡、見逃しがちな奇跡というか、そういう奇跡を捉えてる映画だなと思って見てるんです。この風景が好きって言う場面の後に、凧のシーンを入れてますよね。
小森はるか:その凧は「気仙天旗」って言うんですけど、亡くなられた方達の数の凧を、揚げてるんです。

OIT:ああ、そうなんですね。
小森はるか:まずその弔い方がすごいなと思って。その時に見える風景っていうか、天に亡くなられた人たちの数の凧が伸びていくっていう風景に圧倒されたし、それも市民の方達が自主的に始めて今も続いてるんです。それは阿部さんの映画をつくることとは別に、撮りたいなと思って3月11日に撮影しに行きました。撮影した頃ってまだ嵩上げしてない時期だったから、「空に」っていう意識もなかったんですけど。2018年の阿部さんへのインタビュー撮影で、黙祷放送の話や、亡くなられた人たちを想う場所が地面から空に移っていった話を聞かせてもらった中で、この空に続いていく凧のシーンを入れたら、その想いが重なって見えないかなと思って繋いでみたんです。

OIT:重なったと思いますよ。この空が綺麗で好きだっておっしゃってたのって阿部さんでしたよね?
小森はるか:阿部さんも言ってるけど、私がパンフレットに書いた文章の中でも言ってますね(笑)、でも阿部さんも言ってます。この間お会いしたら嵩上げしてない地面から見える空よりも今の新しいまちから見える空の方が好きだっておっしゃっていて。今の方が綺麗に見えるって。確かにそうなんですよ、山とか建物で隠れちゃうから本当に空しかなくて、だからなのか分からないですけど、まちから見上げる空の印象が違っているんです。

OIT:政策による嵩上げって最初に聞いた時に、反感とかいろいろな意味を含めてそんなことやるわけ?みたいな感覚って当然あったと思うんですけど、政府や行政が決めることっていうのはなんでこうなっちゃうのかなみたいなことを含めて、いっぱい世の中に不満が溢れてるわけですね、その一方でやってみたら意外とこれもありだったみたいなことに数年後になっちゃうっていうことが、また同時にあるんだなというか、なかなか難しいですよね。
小森はるか:良かったって言い切れないと思うんですよね、それはそこに住んでいない人間だからそう言えるっていうか。

OIT:住んでる人はそこでより良く暮らしたいから、そうするからには良いと思わざるを得なくどんどんなっていくっていう現実もやっぱりあるわけですよね。
小森はるか:あると思います、だけど実際に住んでたら確かにそのことよりも大事というか、新しいまちを作っていくためにかけてる時間の方が比重が大きいというか、大事なことだから。もちろんどうなのかっていう問題意識は忘れずに持ってると思うんですけど、難しいですね。そもそも三陸沿岸の過去を見ても同じことが繰り返されているように思うし、そこで失われずに続いてきた暮らしも同時にある。復興の政策をそのまま良しとしているわけではないけれどっていう感じなのかな、それはちょっと同じ立場になれないから言い切れないんですけど。



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