OUTSIDE IN TOKYO
KOMORI HARUKA INTERVIEW

2011年3月11日に起きた東日本大震災の後、三年半にわたってラジオ番組「陸前高田災害FM」のパーソナリティを務めた女性がいた。陸前高田生まれで夫婦で和食料理屋を営んでいたが、震災で店舗と実家を失い、その後、パーソナリティとして地元の人々に寄り添った丁寧な取材と言葉選びで、地元のみならず全国にファンを生んだという阿部裕美(あべ・ひろみ)さんである。

『空に聞く』(2018)は、種屋の佐藤貞一(さとう・ていいち)さんを追った傑作『息の跡』(2016)で知られる小森はるか監督が、『息の跡』の撮影と平行して、阿部裕美さんを親密かつ適切な距離感でキャメラに収め続けることで、震災後の地域の人々の記憶や想いに寄り添い、”空に耳を傾けた”、もうひとつの傑作ドキュメンタリー映画である。映像表現の新たな可能性を切り拓くことを目的としたプロジェクト「愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品」として完成した『空に聞く』は、その後、あいちトリエンナーレ、山形国際ドキュメンタリー映画祭、恵比寿映像祭といった先鋭的な芸術祭・映画祭で上映され、大きな反響を呼んできたが、コロナ禍の影響を受けながらも、2020年11月の今、ついに全国劇場公開に漕ぎ着けた、ひとりでも多くの人に見てほしい作品である。

この映画には、阿部裕美さんがそこで話さなければ、私たちの耳に永遠に届かなかったかもしれない、失われた人々の声が豊かに息づいており、小森はるか監督がそこで撮らなければ、私たちの目に永遠に届かなかったかもしれない、新しい空の美しさと現在進行形で生まれつつある希望の光が宿っている。一体、何故、小森はるか監督の作品ではそのような奇跡が何度も起きているのか、その秘密に少しでも迫るべく、『息の跡』以来、約2年半振りに小森はるか監督にお話を伺った。

1. 共同制作者瀬尾夏美との役割分担について

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):瀬尾さんとの活動は、今もずっと継続して続けている状態でしょうか?
小森はるか:はい。

OIT:瀬尾さんの方は、例えば、『二重のまち』の場合ですと、文章はフィクションですね、ちょっと空想的であったりする世界観。一方で小森さんの場合は作品によって違うとこもあるかもしれませんが、対象に視点を注ぐ、観察するというスタンスであるように思いますが、お二人でやる時は役割分担のようなものはあるのでしょうか?
小森はるか:色々な役割分担をしていて、プロジェクトをまず企画して実際にお金を集めて動かしていくっていう流れの中では、瀬尾がディレクションで私がマネージメントという形でやっています。作品の内容に関しては、企画の発案が瀬尾なので、そのコンセプトに沿ってどういうワークショップを重ねていくかとか、どういう人を対象に作品に協働してもらうかみたいなことを瀬尾が考えていって、その過程で起きることを私がドキュメントしていくというような役割分担なんです。最終的に映像作品として出来上がるものに関しては、どう撮影するか、どのように編集するかというのは基本的に私に任せてもらいます。ドキュメントした素材から編集の構成を組み立てていって、それを瀬尾と一緒に見て微調整をしていくという流れです。例えば、『二重のまち/交代地のうたを編む』(2019)はそういう風に作っています。

OIT:その時、お二人の意見はだいたい合うものでしょうか?
小森はるか:本筋でぶつかることはあまりないんですけど、描き方だったり切り取り方みたいなところでは意見が合わないことは多々あります。でも二人で一緒に見てきたものがあまりにも多いので、多分他の人と何か一緒に組んで作るっていう状況と比べたら、自分たちが思ってる以上に衝突は本当に些細なことで、おおかた上手くいってるんだろうなと思います。

OIT:編集は小森さんがやると今おっしゃってたんですけど、瀬尾さんも見ながら何か言うこともあるのですか?
小森はるか:そこはもう完全に分けています。『二重のまち/交代地のうたを編む』の場合は、撮影と録音に入ってくれた福原悠介さんが編集に参加していて、編集作業は基本二人でやりました。作品として時間の筋が一本通ったなという段階で、瀬尾に見てもらうっていう感じです。編集のタイムラインや素材を瀬尾は見てなくて、本当に客観的にこの作品を見てもらうという感じなんです。

『空に聞く』

11月21日(土)より、ポレポレ東中野にてロードショー他全国順次公開

監督・撮影・編集:小森はるか
撮影・編集・録音・整音:福原悠介
特別協力:瀬尾夏美
企画:愛知芸術文化センター
制作:愛知県美術館
エグゼクティブ・プロデューサー:越後谷卓司

© KOMORI HARUKA

2018年/日本/73分/DCP
配給:東風

『空に聞く』
オフィシャルサイト
https://www.soranikiku.com
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