OUTSIDE IN TOKYO
KUROSAWA KIYOSHI INTERVIEW

小森はるか『空に聞く』インタヴュー

7. (コロナ禍において「映画」のために)色々な映画館や関係者が
 やってきたこと、それと同時に、それで明るみになったこととかも
 たくさんあったので、それも無視せずにやっていきたいなという思いで
 今はいます

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OIT:そうですね、あと歴史的なことっていうのは、その当時は分からなかったりすることもありますよね。先日、『国葬』(2019/セルゲイ・ロズニッツア)という作品を試写で見たのですが、スターリンって今でこそ、独裁者で粛正をして、もの凄い血を流したっていう評価が定着していますが、同時代のソ連ではスターリンが死んだ時、もの凄い悲しみに包まれたと。ソビエト連邦の各地域に政府がカメラマンを派遣して人々が悲しみ暮れるさまをフィルムで撮った大規模なアーカイブ映像とスターリン”国葬”の様子が編集されて一大叙事詩のような作品に仕上がっているんですけど、もちろん、演出もあるし、そもそも悲嘆に暮れないと怒られたりすることもあったのかもしれませんが、そういう作品を見ても思うわけですけど、歴史の知識で知っていることと実際にそこで暮らしていた人たちの感覚っていうのはやっぱり違うというか、想像が及ばないものがあります。それでも映像にそれが残っているっていうことで、その内の真実の一つが伝わってくるみたいな感覚っていうのがあって、ということは映画の映像っていうのは歴史的に凄い射程距離が長いよねっていうことを思っちゃうわけなんです。小森さんは撮ってて何十年後に自分の映画が上映されるっていう感覚って、ありますか?
小森はるか:えー、どうだろう(笑)。そこまで見越せてはないかも、想像力が及んではいないかもしれないんですけど、陸前高田っていう範囲では想像するんですよ。このまちに新たに生まれてきた人たちで全然震災前のことを知らない人たちが、例えばその人たちが大人になったり、おじいちゃん、おばあちゃんになった時に、この映画を見たらどう思うんだろうとか、震災を経験して復興していく最中に暮らしてた人たちの感情を知りたいって思うかもなとか、そこへ投げかけたい気持ちはあるかもしれないです。

OIT:でもそうするとやっぱり50年とかそれぐらいの射程はありますよね。
小森はるか:確かに、そういう射程にはなっているかもしれないけど、それをするためには、その頃まで作品が残っていないと見てもらう状況が起き得ないかなとか思うから、そうなると実現出来るか分からないですね。

OIT:優れた作品は残るはずだということでいけば。
小森はるか:だといいなぁと思いながら、それまでには色々な人が見続けてくれないといけないんだなということを最近やっと思うようになったくらいで。だからそういう意味でいうと、50年後に誰かが見てくれてるという想定で作れてはない気がします。

OIT:今、(コロナ禍の)こういう時代になってしまって、どういう影響を受けてますか?
小森はるか:一概に言えないですけど、自分の中で大きかったことで言うと、陸前高田とは別の地域で撮影を続けさせてもらっていた方がいて、それもまだ本腰入れて映画の制作は出来ていない撮影なんですけど、その中で撮らせてもらいたいなって思っていた方がコロナ禍で会えない間に亡くなられて。103歳の方だったんですよ。いつそうなっても確かにおかしくなかったと言えばおかしくなかったんですけど、でもその方にとっては、人に会えなくなったりしたことって大きかったんじゃないかなって思って。会えない状況が続く内に話を聞けなくなってしまった人がいたりするっていうことに対して、やっぱりちゃんと向き合いたいなって思い立ったんですけど。思ってもなかなか現地に行けないとか、検査すれば行けるのかとか悩みながらですね。結局頻繁には会いに行けないので、そこで制作をどう進めていったらいいのか悩ましいです。しかも多分撮ろうと思っていた生活みたいなものがコロナですごく変わってきちゃってるから、その変化が加速してる気がして、その状況を踏まえて焦る気持ちがあったりするんですけど、でもやっぱり行きづらかったりするので。っていうのは自分にとってネガティブなこととしてコロナの影響を受けている部分ですね。でもそれだけじゃなくてポジティブに捉えたいなと思う部分もある。色々なことを考える時間になったので、できなくなったことだけに引っ張られないようにしたいなと思ってるんです。『空に聞く』も何とか公開出来ることになりましたし。

OIT:『息の跡』はかなりいろんな方がご覧になったと思うんですけど、『空に聞く』も見てほしいですね。
小森はるか:そうですね、見てほしいし、東風さんのコロナ禍の取り組みというか、「仮設の映画館」もそうですし、作品をすごく大事にしてくれている人たちが、身動きの取れなかった時間を繋いでくれていたっていうことがあって。今私はその上でやれていると思うので、そういうことにも感謝しながら、公開を迎えていますね。色々な映画館だったり、映画関係者の方達がこの間にやってきたこと、それで明るみになったこともたくさんあったので。それをちゃんと考えられる時期に、沢山色々な問題が出てきた。その気付きに対しても無視せずにやっていきたいなという思いで今はいます。自分のことだけじゃなくて、今回の映画を映画館で上映するっていうことが、そういう意味を持つ機会にはなったなと思っています。

OIT:難しい状況ですが、これからも作品を撮り続けてください。小森さんの作品を待っている方がいっぱいいますから。
小森はるか:そう言ってもらえると嬉しいです。



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