OUTSIDE IN TOKYO
KOREEDA HIROKAZU INTERVIEW

是枝裕和『奇跡』インタヴュー

4. 同じ時代を生きてものを作っている以上、この経験を踏まえたものを作らざるを得ない

1  |  2  |  3  |  4  |  5



OIT:これまで映画を撮ってきて、そういう意識で作っていたりするのですか?
HK:いや、あまりなかったですね、もちろん、映画の中で描いてるものだったり、人だったりは、いつも愛して作っているつもりです。それが悲劇だろうが何だろうが、悲しい話でも人が死んじゃう話でもそうです。今回が一番、というか、初めて元気になりたいなというか、非常に個人的なモチベーションですけど。単純にこの(子役の)2人を撮っていると元気になるんですよね。この2人と一緒にいると。

OIT:そこは自信を持って提供できますね。
HK:うん、思いますね。

OIT:被災地で上映会をやるとかは?
HK:僕は考えてないですね。

OIT:そういう娯楽が必要という話も聞きますけど。
HK:ああ、そうなんですか。

OIT:エンターテイメントがないという状況でも、様々な悩みを抱える中で、何を見せればいいのか、何を上映すればいいのかという問題もありますよね。僕は個人的に観ることを勧められますが。
HK:あの、いやではない。いやではないんですけど。

OIT:意図的に押したくないと。
HK:さっきもちょっと話したんだけど、プロ野球選手が、僕たちのプレーを見て元気になってくれればいいと思いますって、本当に思ってるかもしれないけど、無理に言わせなくてもいいじゃないかと思うんですよ。

OIT:あ、そうですよね。(僕も同じことをしていますね)すみません。
HK:野球選手は一生懸命に野球をやればいいと思うんですよね。それは非常時でも、非常時でなくても、野球選手は野球をするのが仕事ですから。パン屋さんがパンを焼くのと同じだと思うんですよ。だからおいしいパンを作ればいいんだと思うんですよね。
え、これ、地震?!

(ここで大きな余震に激しくビルが揺れ始める)
OIT:来ましたね。
HK:結構、揺れてるな。縦(型)だな。ちょっと縦に来てるな!

OIT:少し前の縦(型)に近いですね。
HK:ちょっと縦揺れだね、これ。デカいな!5くらいあるよ。長いなあ、また。ここは12階だっけ?震源はどこ?

HK:だから、話を続けると、特別に、色んな作り手がいていいと思うんですけど、あえてこれを観て元気になってくださいと言わなくても、これを経験した以上、それを消化した上で、作り手はたぶん、この経験を反映させたものを作りますよ。ちゃんと向き合おうと思う人は。それで僕はそういう作り手でありたいと思うし、小説家もたぶんそうだと思います。それはあえてそう言わなくても同じ時代を生きてものを作っている以上、この経験を踏まえたものを作らざるを得ないと思います。それでいいんだと思います。それはもしかしてもっと悲劇的な、別に元気が出るようなものではないかもしれない。だからそれをあえて観て、元気になってくださいというものだけではないだろうと思います。それはどのくらい映画、まあ、映画じゃなくてもいいんですけど、自分が向き合っている表現媒体とどれくらい真摯に向き合うかということでいいと思うんですよね。それでその向こう側にたぶん、この震災というものが透けて見えてくるのだろうと思います。

1  |  2  |  3  |  4  |  5