OUTSIDE IN TOKYO
KOREEDA HIROKAZU INTERVIEW

個人的な印象かもしれないが、震災後、以前ならば刺激的に思えた、マイナスのエネルギーをはらんだ映画が少し見づらくなった。そんな時に登場したのが是枝裕和の『奇跡』だった。九州新幹線開通という背景の中で、昨年撮影された映画が震災を想定して作られたわけではもちろんない。だが両親の別居と共に離ればなれに暮らすこととなった兄弟が、再び一緒に暮らすことを夢見て、上下新幹線がすれ違う瞬間に願い事を叫べば叶うという噂を信じ、子供たちだけで旅に出るというさわやかな物語は、ある清々しさをもって今の空気に“癒し”を提供してくれる気がした。だがそんなに単純でないことはこの後の監督の言葉が物語っている。期せずして映画が背負ってしまう役割を、監督は『誰も知らない』などの作品で、これまでも経験してきた。そしてまさにそんなことを話している最中に、突然の余震がビルを大きく揺らし始めた。

1. 子供が旅に出て、世界と出会って帰って来た時に、
 ちゃんとさりげなく迎えられる大人でありたい

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):この震災後という状況の中で、僕自身、前向きになれる映画として人に勧めているのですが、偶然にも、地震や原発の問題が起きる前に撮ったこの映画が、期せずして、ある役割を背負うことになってしまうことがあると思うのです。そんな状況で発言を求められることが多くなっていると思うのですが。
是枝裕和 Hiroshi Koreeda(以降HK):まだ悩んでいます。

OIT:責任もありますものね。
HK:そうなんです。観て元気になってくださいとはとても(僕の口から)言えないですから。それはタイミングによっては暴力になるから。そうではない言葉をどう選んで、どう(言葉を)届けていくかがむずかしいんですね。

OIT:今日、来る途中にJR(の駅でこの映画の)ポスターを見ました。
HK:僕はまだちゃんと見られてないんですが、(主人公の家族が)2人ずつ(立っている)いいポスターですよね。

OIT:あれは映画のポスターですか。
HK:あれは新幹線の(宣伝)ポスターなのかな。タイアップみたいな。

OIT:かなりの宣伝効果ですね(笑)。ああいうものを自分で目にする時はどんな気持ちになるものですか?
HK:あれはいいポスターだなと思います(笑)。

OIT:わりと客観的に見ていますか?
HK:ええ、客観的に見ていますね。

OIT:では、まず地震について聞きます。以前の映画でもあったと思いますが、その後の状況を想定することなく作ったものを観客が(震災後の)今の時点で観ることになるわけです。自分の映画が(自分の手を離れて)持ってしまうかもしれない意味についてはどう捉えているのですか。
HK:それはもう、僕の思惑や意図を超えていくので。でも映画はそういうものだと思うんです。時代を選べないわけだから、一方では、仕方のないことだと思っています。やはりこの映画は、色んな理由から、僕自身が元気になりたいと思って作っていたところもあって、子供の可能性を信じたいと思っていました。子供が旅に出て、世界と出会って帰って来た時に(映画の中で祖父が主人公の少年の帰還を迎えるように)ちゃんとさりげなく迎えられる大人でありたい、という願望も含めて作っている映画なので。そういう意味で言うと、震災前も震災後も、見え方としてはそう変わらないだろうと考えています。でも僕の中ではーー僕もまだ震災後には観直していないんですけどーー震災後にこの映画を観てしまって、僕自身の中でのこの映画の見え方が変わってしまうことはもう少し先延ばしにしたいと思います。今はちょっとその自信がないので(笑)。見え方がどう変わってくるかについては、正直、僕もまだ観ていないので分からないのです。

『奇跡』

6月11日(土)より、バルト9ほか全国ロードショー

監督・脚本・編集:是枝裕和
撮影:山崎裕
照明:尾下栄治
録音:弦巻裕
美術:三ツ松けいこ
装飾:松尾文子
助監督:兼重淳
スクリプター:飯塚美穂
音楽・主題歌:くるり「奇跡」(SPEEDSTAR RECORDS)
出演:前田航基、前田旺志郎、大塚寧々、オダギリジョー、夏川結衣、阿部寛、長澤まさみ、原田芳雄、樹木希林、橋爪功

2011年/日本/127分/カラー/ヴィスタ/DTS-SR
配給:ギャガ

© 2011「奇跡」製作委員会

『奇跡』
オフィシャルサイト
http://kiseki.gaga.ne.jp/
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