OUTSIDE IN TOKYO
Luca Guadagnino INTERVIEW

ルカ・グァダニーノ『胸騒ぎのシチリア』インタヴュー

2. ホックニーの絵画「ビガー・スプラッシュ」から、物事を見る時には表層だけではなく、
 何層ものレイヤーに分かれているものだという概念を教えてもらった

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OIT:ヴィラを訪れた来客が自殺未遂をした友人の話をすると、マリアンが、テーブルの上のコップを蹴る、緊張感に満ちた素晴らしいシーンがあります。あのシーンも脚本に書かれていたのでしょうか?
ルカ・グァダニーノ:もちろん。そのシーンは脚本に書いたよ。僕が尊敬するジャン・ルノワールは、“映画のセットは現実への扉を開いていなくてはならない”と言っている。リアルな状況・流れを、常に想定しておく事が大切だと思っている。

OIT:原題『A bigger Splash』は、デヴィッド・ホックニーの同名絵画にインスパイアされたものだと聞いています。映画の色彩設計にもホックニー作品のポップアート的色彩設計が取り入れられているように見えますが、そうしたルック以外で、内容的にもホックニー作品との連関はありますか?
ルカ・グァダニーノ:僕はホックニーの絵画「ビガー・スプラッシュ」から、物事を見る時には表層だけではなく、何層ものレイヤーに分かれているものだという概念を教えてもらった。キャラクターたちの過去の心境、現在の心境などを語る為に、何層からも成る映像を創る上でインスピレーションを得たんだ。
また、絵画「ビガー・スプラッシュ」は、一見すると誰もいない閑静なコテージのプールで、大きな水飛沫があがっているのがポイント。誰も気づかない水面下で、何かが起ころうとしている緊張感こそが、この絵画の素晴らしい所でもあり、映画を製作する上で影響を受けた。実は、ロンドンのテートギャラリーで、ビガー・スプラッシュの絵画を見ているシーンも撮影したんだけど、編集を重ねる中で、仕方なくカットしたんだよ。

OIT:この作品では、ポールとハリー、マリアンとペネロペ、それぞれの世代間における感覚的な溝、コミュニケーションの溝が描かれています。そして、彼ら/彼女たちは、ついにその溝を超えることが出来ません。これはとても現代的なテーマだと思いますか?あるいは、いつの時代も普遍的なテーマであると言えるでしょうか?
ルカ・グァダニーノ:僕はこういった「相手を理解できない心境」は、人間らしさの1つだと思っている。だから普遍的テーマだね。どんな場所でも、世代が違えば巻き起こる問題だと思っているし、その溝は深刻でもあり、滑稽でもあるよね。

OIT:ティルダ・スウィントンと再び組む事になりましたね。
ルカ・グァダニーノ:私たちの親交も今年で21年になり、消耗することも多いが心躍る映画作りの仕事を、ティルダと一緒にできるのは常に私にとって重要なことだ。彼女と一緒に構想を練るのは気に入っている。ティルダとは親しく寛容な関係だから、仕事だからという理由ではなく、映画を作る時に何か意味があることをしようとする。だから色々なアイデアを思いつく。彼女と一緒に仕事をするというのは、役者を演出するということではなく、映画制作者と組むということになる。コラボレーションをする時は、いつもそういったものを求めている。ティルダと家族のようになるのは自然なことだった。彼女はこの企画に加わることになった時、変更前の脚本のダイアログ部分をすべて読んできた。ハリーが周りの人間を巻き込む言葉の海で、マリアンヌは言葉のゲームに参加してはならないので、声を無くす、というアイデアをティルダが発案してくれた。マリアンヌが声を失うというティルダが持ち込んだ発想は、映画制作の中でもレベルの高い一例だと思う。

OIT:彼女が声を失うという設定に伴って、サイレント映画の演出を意識することはありましたか?
ルカ・グァダニーノ:僕は常に僕の映画がサイレント映画と捉えられるように映画を撮ろうとトライしているよ。


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