OUTSIDE IN TOKYO
Luca Guadagnino INTERVIEW

ティルダ・スウィントンと4度目のコラボレーション(『The Protagonists』(99),『Tilda Swinton: The Love Factory』(02),『ミラノ、愛に生きる』(09)))を果たしたルカ・グァダニーノ監督の新作『胸騒ぎのシチリア』は、原案となった、アラン・ドロン、ロミー・シュナイダー競演の『太陽が知っている』(69)が湛える倒錯的な艶かしさと、その時代が持ち得た犯罪の気配を、21世紀南イタリアの照りつける太陽の下で脱白し、男女4人の欲望を民主的な手捌きで明け透けに描きだす、サスペンス仕立ての群像劇である。

声を失ったロック・ミュージシャン、マリアン(ティルダ・スウィントン)と若い撮影監督ポール(マティアス・スーナールツ )が、俗世間から隔絶した瀟洒なヴィラで親密なオフの時間を過ごしている処に、その静寂を打ち破るように、エネルギーの固まりのような厚かましい男、音楽プロデューサーのハリー(レイフ・ファインズ)が、最近その存在を知ったばかりだという娘ペネロペ(ダコタ・ジョンソン)を連れだって現れる。 秘かにマリアンとの復縁を画策するハリー、ポールに「美しいものには目がないの」と妖しく語りかけるペネロペ、そもそも、ペネロペはハリーの実の娘なのか?錯綜する4人の思惑が水面下で蠢く中、世代間に横たわる決定的且つ微妙な溝がスリスングに可視化されていく。

ラフ・シモンズが手掛けた衣装、起伏に富んだパンテッレリーア島のロケーション、イタリア映画ならではの映像美が見るものを魅了する。しかしこの美しさは、ルキーノ・ヴィスコンティの映画のような、古典映画が備えた美しさとは明らかに違っている。むしろ、この映画で最も目を惹くのは、スコセッシ的に畳み掛けるロック使いの異形のシークエンスの素晴らしさである。ティルダが演じたロック・ミュージシャン、マリアンの役は、ここ日本でもドキュメンタリー映画『イングリッド・バーグマン~愛に生きた女優~』(15)が公開され、伝説の大女優の新たな一面が明かされたイングリッド・バーグマンへのオマージュでもあると語る、グァダニーノ監督のインタヴューをお届けする。

1. 彼らの人生が交わり、もがく姿を想像した時に、
 自分たちの人生を形成する“欲望の法則”を見つけたように感じた

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):原案となった『太陽が知っている』(69)では、アラン・ドロン演じるジャン=ポールの異常心理が強調され、”黒い噂”にまみれたアラン・ドロンのパブリック・イメージを映画という虚構の世界におけるリアリティの醸造に利用していたように思いますが、本作『胸騒ぎのシチリア』では、4人ぞれぞれの欲望が明け透けに描かれ、より群像劇的なアプローチがとられているように思います。本作の脚本を手掛けたデヴィッド・カイガニックとはどのような共同作業が行われましたか?
ルカ・グァダニーノ:私の映画『ミラノ、愛に生きる』(10)を観て共同製作に興味を持ち連絡をくれたスタジオカナルが、『太陽が知っている』(69)の権利を持っていたんだ。その映画はフランスでは熱狂的な支持を得ていたので、スタジオカナルはリメイク版を制作するだけの根拠になると考えた。デヴィッドと私は、『太陽が知っている』を着想の源と考えて原作の本質を研究し、ジャック・ドレーが監督し、ジャン=クロード・カリエールが脚本を手がけ、アラン・パージュによる原案と小説が作り上げた作品の本質をどのように置き換えるかを考えた。しかし、結局、『太陽が知っている』はスタート地点を探す上でのベースに過ぎない。実際にはジャック・ドレイの映画に登場するキャラクターと僕たちの映画のものは完全に異なる。オリジナル版をベースにしながら、“欲望”をテーマに掘り下げてみたら面白いのではと考え、“欲望に駆られた4人”を登場させたんだ。群像劇のアイディアはデヴィッドとの深い会話の中からうまれた。僕たちは会話し、お互いの言っていることに耳を傾けながら仕事をした。主人公のマリアンを中心に、彼らの人生が交わり、もがく姿を想像した時に、自分たちの人生を形成する“欲望の法則”を見つけたように感じた。目に見えるものだけが優先されるのではなく、答えを観客の考えに委ねる展開にしたかったんだ。




『胸騒ぎのシチリア』
原題:A Bigger Splash

11月19日(土)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

監督・製作:ルカ・グァダニーノ
製作:マイケル・コスティガン
製作総指揮:マルコ・モラビート、デヴィッド・カイガニック、オリヴィエ・クールソン、ロン・ハルパーン
原作・原案:アラン・パジェ
脚本:デヴィッド・カイガニック
オリジナル脚本:ジャック・ドレー、ジャン=クロード・カリエール
撮影:ヨリック・ル・ソー
プロダクションデザイン:マリア・ジャーコヴィク
衣装デザイン:ジュリア・ピエルサンティ
編集:ヴァルテル・ファサーノ
出演:ティルダ・スウィントン、レイフ・ファインズ、ダコタ・ジョンソン、マティアス・スーナールツ

© 2015 FRENESY FILM COMPANY. ALL RIGHTS RESERVED

2015年/イタリア、フランス/英語/125分/ビスタ/カラー/5.1ch
配給:キノフィルムズ

『胸騒ぎのシチリア』
オフィシャルサイト
http://sicily-movie.com
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