ベテランと呼ばれる監督たちが世界の映画界で活発な動きを見せるなか、イタリア映画界の巨匠と呼ぶにふさわしいマルコ・ベロッキオが2009年に新作を発表し、昨年の東京フィルメックスで初来日を果たした。そしてようやく劇場公開されるその『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女(原題”Vincere”)』は、ムッソリーニの愛人だったイーダ・ダルセルを主人公に据え、イタリア国内でもちょっとした物議を醸した。それは、一度はムッソリーニと(彼女いわく)“結婚”し、息子をもうけながらも、ムッソリーニからも社会からも黙殺されたため、一般のイタリア人にほとんど知られてこなかったことであるという。その上、精神病院に“幽閉”され、息子とも引き離され、最後にはその息子も精神病院で息を引き取ったという事実が浮き彫りになる。まだイタリアをファシズムへ引き込む前のムッソリーニの、ジャーナリストとしての、資金的にも後ろ盾となったのがそのイーダ・ダルセルで、資材どころか、自分の人生を投げうって、彼と人生を共にすることを信じ尽くしたにも拘らず、結果的に政治の階段を昇っていく、愛する男に裏切られ、死に追いやられるというショッキングな人生が長いこと隠されてきた事実を、伝記やその頃のニュースで知ることになり、この映画を生む原動力になったことをベロッキオ監督は語っている。自らの周囲の資金で撮った『ポケットの中の握り拳』でデビューし、『肉体の悪魔』『母の微笑み』『夜よ、こんにちは』など、政治的、社会的な背景を描きながらも、その裏で翻弄される人々の真の姿(その強さも弱さも)を描いてきたベロッキオがこの題材を選んだことはごく自然なことのようにも思える。時間が限られていたため、かいつまんで聞くことしかできなかった私たちのインタビューを補足するため、映画祭での上映後に行われた興味深いQ&Aも後半に掲載した。歴史の中から浮き彫りになる物語を描く監督が、歴史的事件が毎日のように頻発している今のこの時代に、今後どのような物語を描いていくのかも興味深い。
1. イーダ・ダルセルの爆発的で反抗的な感情に強く惹かれた |
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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT): まず、今作『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』を作る上で、事実に基づいた部分と、フィクション、つまり創作された部分とのバランスはどう考えたのでしょう。 マルコ・ベロッキオ(以降MB):まずひとつに、この映画には映画館がたくさん出てきます。それは映画館そのものを主役のひとつに据えたいと考えたからです。確かに、映画を通低して流れるイメージも脚本の段階から想定していました。そこから編集段階で、ニュース映像の部分を追加しようということで、後からさらに変更を加えました。ただし、最初は映画館を想定していたわけですが、それ以外にも精神病院など様々な場所でも映画が上映されることになりました。それは最初は想定していなかったことですが、徐々に、もっと(枠を)広げて、映画館に限定することなく、もっと色々な場所で見せようと、つまり(定義は)「映画」そのものへ変わっていったわけです。 OIT:そもそもムッソリーニについての映画を撮ろうと興味を持ち始めたのはいつだったのですか?
MB:ひとつに、それが全く知られていなかったからです。私自身も偶然知ったほどです。ドキュメンタリーを見たり、新聞を読んだりしているうちに偶然知り得たわけですが、彼女(イーダ・ダルセル )のプライベート、つまり本当にプライベートの部分は歴史家たちにも全く知られていなかったことで、最近になってようやく浮上してきたのです。私は自分でファシズムについてよく知っているつもりでいたのに、「えっ、こんなことがあったのか!」というほど興味を掻き立てられ、こうして映画を作るまでになったのです。 OIT:ああ、そうなんですね。一般のイタリア人にはあまり知られていないことだったんですね。
MB:そう、ほとんど知られていませんでした。彼女、イーダ・ダルセルの歴史、つまり彼女の「物語」は、歴史家たちも示唆はするけれど、ほとんど書かれることもなく、これまで詳しく調べられてこなかったのです。そして伝記が出版された今もなお、彼女の名前は出てくるけれど、ほとんど数行しか触れてこられていない状況でした。でも実際に調べてみると、彼女の爆発的で反抗的な感情に強く惹かれるようになっていったのです。
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『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』 原題:VINCERE 5月28日(土)より、東京・シネマート新宿、 6月11日(土)より、大阪・シネマート心斎橋 ほか全国順次ロードショー 監督・脚本:マルコ・ベロッキオ 共同脚本:ダニエーラ・チェゼッリ 撮影:ダニエーレ・チブリ 編集:フランチェスカ・カルヴェッリ 音楽:カルロ・クリヴェッリ 出演:ジョヴァンナ・メッゾジョルノ、フィリッポ・ティーミ、ファウスト・ルッソ・アレシ、ミケーラ・チェスコン、ピエール・ジョルジョ・ベロッキオ 2009/イタリア/カラー・モノクロ/35mm/イタリア語/128分 配給:エスピーオー 宣伝:マジックアワー © 2009 Rai Cinema-Offside-Celluloid Dreamas 『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』 オフィシャルサイト http://www.ainoshouri.com/
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