OUTSIDE IN TOKYO
TETSUYA MARIKO INTERVIEW

2010年という新しい10年<New Decade>の冒頭を飾るに相応しい、新しい日本映画の才能が登場した。藝大大学院を卒業したばかりの弱冠28歳、真利子哲也である。その卒業製作『イエローキッド』が多くの批評家から絶賛され、早くも“鬼才”呼ばわりするメディアも出現。そんな真利子哲也監督に実際お会いしてお話を伺ってみると、研ぎすまされた刃のような切れ味の鋭さと役者を極限まで追いつめているとしか思えない、心身ともに限界に挑戦したかのような演出の切迫感、そのぎりぎりの地点から生まれるユーモアといった映画『イエローキッド』を特徴付ける過剰さは、“ユーモア”を除いて本人からは伝わってこない。それはごく当然のことなのだが、多くの映画作家と同様に、彼からも伝わってくるのは、ある種のシャイネスと表裏一体の知性であり、謙虚さと表裏一体のしなやかな感性だった。単純にわかりやすい映画にはしたくないと語りながらも、物語の分かり易さには心を砕き、卒業制作ながらも娯楽映画としての矜持を持ちながら、ジョナス・メカスの名前が出ると目を輝かせて純粋な映画青年の顔をのぞかせる、そのユニバーサルなバランス感覚の良さが印象に残った。映画『イエローキッド』は、今年、まず一番最初に映画館で見るべき日本映画であると断言しても良いだろう。いずれ、真利子監督の作品からは、“日本”という地域特性を不要とする日が来るだろうという予兆を感じながら。

1. 『イエローキッド』は現時点での集大成

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OUTSIDE IN TOKYO:『イエローキッド』は、東京藝術大学大学院の卒業制作にして、劇場デビュー作という事態になりましたが、最初からそのようなことを目指して作られたのですか?
真利子哲也:いえ、藝大大学院の卒業制作ですと、通常、1週間だけ渋谷のユーロスペースで「卒業制作展」という形で上映されるというものでした。それも2回しか上映出来ないのですが、そういう意味では劇場公開というものを意識していましたけど、、、

この規模での劇場公開は約束されていたわけではなく、反応が良かったからこういう展開になったということですね。
(藝大大学院の卒業制作展では)初めてのことだと思います。とてもありがたいと思っています。

とはいえ、心づもりとしては、今回の作品に、今自分が出来ることを全部詰め込んで、ベストなものを作るのだという意気込みはあったわけですね?
そうですね、それはありました。自分だけではないのですが、スタッフも2年間ずっと一緒にやってきて、それぞれの得意分野も分かってきている中で、全員が今現在の状況で自分達で出来ることを全力でやるということでは、本当に集大成になったといえます。

そうした迫力が画面からも伝わってきました。それが役者さんに乗り移っているのか、彼らが画面から飛び出してきて殴りかかってきそうな、そういう迫力のある映画でした。
役者さんも、ボクシングを扱っている映画なので、経験者を探しました。結局、ボクシングではないのですが、遠藤要さん(主人公の田村)はキックボクシングをやっていて、玉井君(田村の先輩、榎本)はブラジルまで留学して柔術を本格的にやっていたりして、そういう人たちをなるべく集めました。

先日の黒沢清監督との対談(※1)では、あの榎本役の恐い人は、実際はとても好青年で、役柄の為に彼をかなり追いつめなければなりませんでしたと、真利子監督は告白していましたが、実は、そういうアグレッシブなバックグラウンドがあったと、、、やはりただの好青年ではない。
彼は、EMBUゼミナール出身で、役者をやろうという人間だったのですが、それ以前はブラジルに行くくらい本格的に格闘技をやっていて、だからこそ、凄く礼儀正しいんですね。人としてとても出来ている人なんです。逆にそれは、役者としては、悪い奴の役であれば悪い奴になりきりたいという所もすごくあって、一緒になって役を作り上げていったという感じでした。

今回は、その榎本役の玉井さんも含めて、プロの役者さんを使っているわけですが、今までは、プロの役者さんを使うということはなかった?
いえ、藝大の中で作られる映画では、プロの方は結構出演されています。あまり役者がプロであることを意識するような関係ではなく、ぼくも単純に東京芸大という肩書きがあるだけでアマチュアという意識はなかったです。役者さんにしても良い映画に出たい、良い映画を作りたいという気持ちは同じなので、臆せず自分の考えを伝えていこうと思いました。今回は、話し合いの上で役者さんに演技の部分は任せたいという気持ちもありつつ、そこで自分の意図しないものが出てきたら、押さえるということも演出しました。

『イエローキッド』

1月30日(土)ユーロスペース他 全国順次拡大公開決定

監督・脚本:真利子哲也
プロデューサー:原尭志
撮影監督:青木穣
録音:金地宏晃
美術:保泉綾子
編集:平田竜馬
助監督:矢崎隼人、橋爪慧
照明:後閑健太
ヘア&メイク:寺島和弥
衣装:渡辺裕子
漫画制作:大脇勇亮、川崎秀和
音楽:鈴木広志、大口俊輔
出演:遠藤要、岩瀬亮、波岡一喜、町田マリー、玉井英棋、三浦力、でんでん、小野敦子、酒井健太郎、吉増裕士、中島朋人、内木英二

2009年/日本/106分/HD/1:1,85/ステレオ
配給:ユーロスペース

『イエローキッド』
オフィシャルサイト
http://www.yellow-kid.jp/





(※1)黒沢清監督と真利子哲也監督との対談
2009年11月18日(水)映画美学校にて、試写終了後に開催
http://www.yellow-kid.jp/news/taidan.html
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