OUTSIDE IN TOKYO
MATHIEU AMALRIC INTERVIEW

アルノー・デプレシャン監督の『そして僕は恋をする』(96)でセザール賞若手有望男優賞を受賞してはや13年。マチュー・アマルリックはその強い瞳で我々観客はもちろん、名だたる監督たちをも魅了し続けている。彼はもはやフランス映画界に欠かせない存在となった。
自身も映画監督であるマチューは現在新作の準備に取りかかっていて忙しいという。インタビューをしたこの日も、昼食を取る間も惜しんで作業に没頭していたようだ。(元々マチューは監督志望で、すでに10本近く作品を撮っているのだが、彼の監督作品はまだひとつも日本公開されていない。公開希望!)『クリスマス・ストーリー』については三年前の撮影ということもあり、ときどき思い出すような仕草をしながら訥々と語ってくれた。

1. いろいろ言うような俳優は殺した方がいいよ

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──いつもクセのある役柄を演じておられますが、今回の役アンリもまた捕らえ所のない人物です。言わば、俳優は役柄ごとに変身していくわけですが、ご自分で自身はどんな人間だと思っていらっしゃいますか?
マチュー:俳優はおもしろい監督と出会うことでいろんな役柄をもらえる。それを私は楽しんでいます。人生なにもなかったら退屈してしまうので、一風変わった人物を演技という形で体験できるのはとても刺激になります。

デプレシャン監督の作品に関して言えば、アルノー・デプレシャン独特の世界が既にあるので、そこに私が入って演じているという感じです。どちらかというと、道徳的なメッセージを掲げるような映画やいわゆる普通の映画が私はあまり得意ではないので、やはりこのような映画に惹かれますね

──デプレシャン監督はかつて、自身の演出について「自分の指示は細かい」と言っていました。「クリスマス・ストーリー」においては、身体的、心理的にどのような指示があったのか。また、ご自分の方からアイディアを出したようなシーンはあったのか。お聞かせください。
マチュー:俳優なんて動物と一緒のようなものだから、アイディアとかなんとか言わない方がいい。いろいろ言うような俳優は殺した方がいいよ(笑)

デプレシャン監督は本当に指示が多いです。どちらかというと、こういう風に思えというような心理的な指示ではなく、そのほとんどは手の動きや指の動きといったような身体的な指示です。その人物の内面を動作で出すようにしているんだと思います。例えば、あっちの窓の方へ行ってあちらを向いてくれだとか、煙草に火を点けて欲しいのだけど左手で点けてくれといったように、ものすごく細かい指示がくる。あまりにもたくさんの指示がくるので、意識して演技をしているヒマがないほどです。そうしているうちに内面の方もにじみ出てくるような、彼独特の面白いやり方なんです。そのやり方で彼はすごく感動的な作品を作っている。なので、俳優に『ハイ、あなたのお母さんが死んだのだから悲しいだろう。悲しみなさい』といったような指示は出しません。

『クリスマス・ストーリー』
原題:Un conte de Noël

フランス映画祭2010上映作品
2010年秋 恵比寿ガーデンシネマ他全国順次ロードショー

監督:アルノー・デプレシャン
製作:パスカル・コーシュトゥー
脚本:アルノー・デプレシャン、エマニュエル・ブルデュー
撮影:エリック・ゴーティエ
美術:ダン・ベヴァン
衣装:ナタリー・ラウール
編集:ロランス・ブリオー
音楽:グレゴワール・エッツェル
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン=ポール・ルシヨン、マチュー・アマルリック、アンヌ・コンシニ、メルヴィル・プポー、エマニュエル・デュヴォス、キアラ・マストロヤンニ、ローラン・カペリュート、イポリット・ジラルド、エミール・ベルリング

2008年/フランス/150分
配給:ムヴィオラ

(c)Jean-Claude Lother/Why Not Productions

『クリスマス・ストーリー』
オフィシャルサイト(仏語)
http://www.bacfilms.com/site/conte/


『クリスマス・ストーリー』レビュー

フランス映画祭2010

マチュー・アマルリック特集
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