OUTSIDE IN TOKYO
Mehrdad Oskouei Interview

塀に囲まれたイランの少女更正施設には、強盗、殺人、薬物、売春といった罪で捕らえられた少女たちが収容されている。撮影許可を得るのに7年もの歳月をかけ、彼女たちの”失われた人生”に光を充てるのは、イランを代表するドキュメンタリー作家メヘルダード・オスコウイ。”ドキュメンタリー”といっても、このインタヴューを読んで頂ければ分かる通り、作り方は”フィクション”のそれと同じで、綿密な準備を経て映画は撮影されている。既に監督自身が様々な機会に明かしている通り、最も影響を受けたのが、アッバス・キアロスタミ、小津安二郎、ロベール・ブレッソンであるというのだから推して知るべしである。

メヘルダード・オスコウイのカメラは、ほとんど、この収容施設から出ることなく、塀の中の彼女たちの日常と彼女たち自身による告白を親密な距離感で捉えていくが、その視座から捉えられた映像は、対象を表面的ではなく、空間の奥行きを含めて立体的な映像に収めようとする意思が漲っている。その先にやがて、彼女たちの人生に公使された不正義の物語が浮かび上がってくる。カメラはこの閉鎖空間をほとんど出ることなく、フレームの外の世界、つまりはイラン社会における、性的虐待や薬物依存による育児放棄といった、子どもたちが犯罪行為に身を染めざるを得なくなる痛々しい現実を浮き彫りにしていくが、この映画を見るものの驚きとは、むしろ、こうした惨状は、私たちが日頃テレビの報道などを通じて目にしている我が国の実情と同じであるということである。

それでもなお、ハーテレが「親に会いたくない」と施設の者に懇願する時に見せる微笑みのようにすらみえる困惑の表情や、歌が上手く場を盛り上げるのが得意なマスーメと仲の良いノーバディ(シャガイエ)が性的虐待を受けた叔父なら「殺してもいい」と語るその圧倒的正当性は、”ドキュメンタリー映画”にこそ許された特別な瞬間を捉えた映像であるし、彼女たちが流行歌を合唱するシーンや”冬枯れの庭”で雪合戦に興じる場面、皆で絨毯洗いに精を出す場面には、前述の”驚き”とは無縁に、魅了されるしかない映画的瞬間が豊かに息づいている。メヘルダード・オスコウイは、希代のストーリーテラーである。

1. 日本はもちろんのこと、ポーランド、アメリカ、カナダ、オーストラリア、オランダ、
 どの国でも同じような状況があると言われました

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):作品を拝見して、素晴らしい映画だと思いました。まず扱っているテーマですが、家族に虐待を受けたり、ネグレクトにあった子供が非行に走るという事は日本でもよくニュースになっています、欧米でも同じだと思いますが、イランでもそうなんだなとこの映画を見て知りました。宗教は違うけれど普遍性のあるテーマを扱っていらっしゃる。世界の映画祭で上映されてどのような反応でしたか?
メヘルダード・オスコウイ:この作品は、これまでおよそ130カ国の国々で上映されてきました。その内、40ヶ所で賞を授かり、この映画を通じてたくさんの人達との出会いがありました。もちろん、今仰られた通り、日本でも色々な方と話しをしていて、同じような状況があると分かりました。様々な国に行きましたが、必ず自分達の子供の話になります。違いはイランの少女達はスカーフを被ってるだけで、本当に彼女たちが語る話とか、状況は全く同じですということを言われてきました。特にポーランドとアメリカでは、たくさんのソーシャルワーカー達が集まってきて、本当に自分達の国の子供達を見ているようだと言われました。カナダでもオーストラリアでもオランダでも、同じような状況があると言われてきました。


『少女は夜明けに夢をみる』
英題:Starless Dreams

11月2日(土)より岩波ホールほか、全国順次ロードショー

監督:メヘルダード・オスコウイ
撮影:モハメド・ハダディ
音楽:アフシン・アジジ

©Oskouei Film Production

2016年/イラン/ペルシア語/76分/カラー/DCP/16:9/Dolby 5.1ch/ドキュメンタリー
配給:ノンデライコ

『少女は夜明けに夢をみる』
オフィシャルサイト
http://www.syoujyo-yoake.com
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